鍾馗から一言


 みなさん、私たち「鍾馗」は長い間京都の町を守って来ました。 京都には、私と同じ型で作られた兄弟達も大勢いますが、親戚達も百種類以上住んでいます。 もう少し前には、もっと多くの仲間がいたのですが、バブルの地上げで激減してしまいました。  京都でたった一人しかいなかった、フクロウみたいな顔をしたAさんや、鬼の様に恐ろしい顔なのに気のいいBさんなども、古い家と共に消えてしまったのです。いずれこの私も、消え去る運命なのでしょうか。?   

 私の友人で、立派な家を作ってもらっている者もありますが、大半は私と同じように、毎日古い家の小屋根の上で雨風にさらされ、ほこりにまみれて、それでも両足を踏ん張って立っています。 人々は私の下を通り過ぎますが、誰も私を見ようとはしません。そればかりか、私の家のご主人達も私がここに立っている事すら忘れておられる様子で、私は自分がもう誰にも気付かれず、なんの価値もない、小さな灰色の土の塊に成ってしまったのではないかと心配です。

 私たちが京都から消え去ったとき、京都は一体どんな町になっているのでしょうか?      

 みなさん、町で私たちを見かけられたら、どうか声をかけて励まして下さい。古い家の入り口の小屋根の上・・・・・・・私たちはそこにいます。


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京都の鍾馗
撮影ノート



鍾馗さんは、現在でも作られていますし、実際、町の瓦屋さんで一万円前後で買うことが出来ます。

京都では、唯一軒だけ鍾馗さんを作っている伏見区の浅田さんがおられます。

又、西陣の町家の復活に力を入れておられる妙蓮寺,円常院住職の佐野充照さんも、鍾馗のオーソリティで、古い家の建て替えなどで鍾馗を捨てられる方は、円常院に持ってゆくと供養をして下さるそうです。

 


瓦の鍾馗さんについて

瓦の鍾馗さんと言うと、江戸時代の文化、文政年間に書かれた石塚豊芥子の「街談文文集要」があります。

その中の「鬼瓦看発病」には次のような話が出ています。

文化二年(1805)の夏、京都三条の薬屋が家の棟に大きな鬼瓦を取り付けたのを、向かいの家の女房が看て気分が悪くなり病み伏してしまった。

いろいろ薬を飲ませたが効き目がなく、原因が向かいの家の鬼瓦だというので、深草の焼き物やに注文して鍾馗の像を作らせこちらの屋根にのせたところ、女房の病気はたちまち全快した。

と言うもので、この話が本当かどうかはともかく、鬼瓦と鍾馗の関係がうかがわれて面白いと思います。

また、この時代に瓦鍾馗があったことは、これより23年ばかりあとの文政十一年の銘のある立派な瓦鍾馗が滋賀県近江八幡市の「かわらミュージアム」にあることから、ほぼ間違いないと言えます。

それ以前の瓦鍾馗については今の所資料がありませんが、「魔除け」「疫病除け」の鍾馗札(紙に鍾馗の絵姿を摺ったもの)については、享和二年(1802)滝沢馬琴が江戸から京阪、伊勢の方に旅をした時に書いた、「 羈旅漫録」に、「遠州より三州のあひだ人家の戸守りはことごとく鍾馗なり、かたはらに山伏某としるしたるもあり」とあり、又、喜多村信節の「嬉遊笑覧」(1830)にも「・・・今も尾張熱田の民家にみなこの画像を戸に押す」とあって、遠州、三州、尾張のあたりでは「疫病除け」のためにみな鍾馗札を戸に貼っていたことがわかります。

そしてこれは馬琴も書いているように、山伏が鍾馗札を売り歩いていたらしく、昭和四十年、澤田四郎作氏の「戸守りの鍾馗」にも大阪のあびこ観音の参道で山伏姿の男が鍾馗札を売っていると書かれていますので、かなり長い間つづいていたことになります。 (現在でもあびこ観音では鍾馗札を売っております)

この鍾馗札と瓦鍾馗の関係はよくわかりませんが、三州は瓦の一大生産地なので、そこで鍾馗札が次第に瓦鍾馗に変わっていったのか、あるいは京都あたりで瓦鍾馗が流行してまわりに広まっていったのか、これはもうすこし考えてみたいと思います。

ただ、鍾馗札と瓦鍾馗ではあげる理由がすこし違うようにも考えられます。

奈良の古い集落を歩きますと、瓦鍾馗はお寺や神社のまわりか道の突き当たりにあり、それ以外の民家にはありません。これは最初の「文文集要」の鬼瓦対鍾馗のように、お寺の鬼瓦や神社の霊力に対してあげているので、「魔除け」「疫病除け」ではないようです。

寺の大きな鬼瓦に対しては戸口に貼る紙のお札よりも、同じく屋根に瓦の鍾馗像をあげた方がより効果的なのは確かで、このような用途で作られた瓦鍾馗がやがて鍾馗札に変わって一般の民家にもあげられるようになっていったのかもしれません。

現在、瓦鍾馗さんのあるところは、兵庫県、大阪府、京都府、滋賀県、奈良県、三重県、愛知県、と何故か離れてさいたま県です。

あとは情報がなく、私も調べておりません。

皆さんの家の近所のお寺や神社のまわり、道の突き当たりの家などに瓦鍾馗さんがあれば、是非御一報下さるよう切にお願い申し上げます。