8 インフルエンザQ&A(平成16年度改訂版)
厚生労働省ホームページの「トピックス」中、「今冬のインフルエンザ総合対策について(平成16年度)」の「インフルエンザQ&A」より抜粋
インフルエンザQ&A
平成16年度改訂版
国立感染症研究所感染症情報センター
厚生労働省健康局結核感染症課
日本医師会感染症危機管理対策室
●インフルエンザ総論・臨床
Q.1:インフルエンザとはどういう病気ですか?
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、鼻咽頭、のど、気管支などを標的臓器とします。急に発症する38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などに加えて、咽頭痛、鼻汁、咳などの症状も見られます。大多数の人では特に治療を行なわなくても1−2週間で自然治癒します。しかしながら、乳幼児、高齢者、基礎疾患をもつ人では、気管支炎、肺炎などを併発したり基礎疾患の悪化を招いたりして、最悪の場合死に至ることもあります。
普通のかぜとインフルエンザは、症状に多少の類似性があるものの疾病としては全く違うものです。普通のかぜはライノウイルスやコロナウイルス等の感染によって起こり、咽頭痛、鼻汁、咳などの症状が中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはあまりありません。また、インフルエンザは、基本的に流行性疾患であり、一旦流行が始まると、短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。
名前の似ているヘモフィルス・インフルエンザ菌という細菌がありますが、これは以前インフルエンザの原因と間違われたためについた名称で、インフルエンザの原因ではなく、別の疾患の原因となります。また、2003年前半に、アジアを中心に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)はSARSコロナウイルスによる感染症であり、インフルエンザとは異なる疾患です。詳細はSARSに関するQ&Aをご覧ください。
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/QA/QAver2.html
Q.2:インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。
症状については、突然の38〜39℃を超える発熱と頭痛、関節痛、筋肉痛などに加え、鼻汁、咽頭痛、咳などの上気道炎症状がみられ、全身倦怠感等の全身症状も出現します。流行期(我が国では例年11月〜4月)にこれらの症状のあった場合はインフルエンザの可能性が高いと考えられます。潜伏期は1日から5日(平均3日間)とされています。通常、症状は約1週間で軽快することがほとんどですが、肺炎などを合併する場合もあり注意が必要です。また、インフルエンザは、非特異的な症状を呈する例も多く、流行のピーク以外の時期に臨床所見だけからで他の疾患と鑑別することは困難です。
確定診断は、咽頭ぬぐい液、うがい液、鼻腔吸引液などからのウイルス分離や、血液検査で抗体価の有意な上昇(抗体陽転あるいは急性期と回復期で4倍以上の上昇)の確認で行いますが、検査に日数を要することから臨床現場での実用性は高くありません。しかし、流行中のウイルス種の同定や、次シーズンのワクチン株選定のためにはこれらの検体からのウイルス分離が重要な情報となります。
臨床現場での診断補助のためには、発症早期にインフルエンザウイルス抗原を検出するための迅速診断キットがすでに普及しており、通常30分以内に結果を判定でき、ベッドサイドや外来でも診断が可能です。現在、7種類程度の迅速診断キットが流通しています。検査の感度は、検体の種類や採取時期、キットの種類により異なります。添付文書等を参照してください。
迅速診断キットには下記のような種類があります。
(以下は平成16年10月15日現在市販されていることを把握している迅速診断キットで、感染症研究所として推薦しているものではありません)
商品名(発売元・ホームページ)
インフルA・Bクイック、クイックS―インフルA・B(デンカ生研www.denka-seiken.co.jp)
エスプライン インフルエンザA&B−N(富士レビオwww.fujirebio.co.jp)
キャピリア Flu A,B、ディレクティジェンFlu A+B(日本ベクトン・ディッキンソンwww.bdj.co.jp)
ポクテム インフルエンザA/B(シスメックスwww.sysmex.co.jp)
ラピットテスタ FLUII(第一化学薬品www.kensa-daiichi.jp)
ラピッドビューインフルエンザA/B(住友製薬バイオメディカルwww.ssbm.co.jp)
Q.3:インフルエンザの合併症について教えてください。
抵抗力の弱い高齢者・乳幼児、気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの方は、インフルエンザにかかると合併症を併発する場合があります。高齢者では細菌の二次感染による肺炎、気管支炎、慢性気管支炎の増悪が起こりえます。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが起こりえます。その他の合併症としては、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、アスピリンとの関連が指摘されているライ症候群などが挙げられます。合併症の状況によっては入院を要したり、死亡する例もあり注意を要します。近年我が国では、小児において年間100〜200例の、インフルエンザに関連したと考えられる急性脳症の存在が明らかとなり、現在病態の解明が進められています(Q34、脳症の項を参照)。
Q.4:インフルエンザにはどんな治療法がありますか?
他の疾患にも共通して言えることですが、早めに治療し、体を休めることは、自分のからだを守るだけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。一般的な注意点は、以下のようなことです。
インフルエンザに対する特異的な治療として、1998年11月から抗インフルエンザウイルス治療薬(Q5参照)が使用できるようになりました。また、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなりますが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎などの合併症に対する治療として抗菌薬が使用されます。これらの薬の効果については、インフルエンザの症状が出はじめてからの時間や病状により異なりますので、使用する、しないは医師の判断となります。なお、一般の感冒薬(かぜ薬)と言われるものは、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわらげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。
Q.5:インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?
インフルエンザの治療薬としては、ここ数年で様々な薬剤が利用可能となりました。
本邦では平成10年11月に、インフルエンザの治療薬として抗ウイルス剤の塩酸アマンタジン(商品名シンメトレル)が認可されましたが、この薬剤は従来、パーキンソン病の治療薬として1970年代から用いられてきました。インフルエンザウイルスが細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスで細胞内にとりこまれ、M2イオンチャネルが活性化されます。塩酸アマンタジンはM2イオンチャネルを阻害することにより、ウイルス粒子の細胞核内への輸送を阻止することで、抗ウイルス活性をもつと言われています。このようにA型だけが持つM蛋白に作用するため、A型インフルエンザのみにしか効果はありません。アマンタジンを投与された患者の約30%でアマンタジン耐性のA型インフルエンザウイルスが出現するという報告もあることから投薬には注意が必要であり、投与期間を1週間程度に止めることという使用上の注意が出されています。副作用としては、主として嘔気などの消化器症状やふらつき、不眠などの中枢神経症状が軽度ながら出現することがあると報告され、使用した場合の注意事項としては、車の運転を避けることなどが挙げられています。米国では重症化のおそれがあるとされるグループやワクチンの接種が出来ない者、医療従事者へのワクチン接種を補う予防薬としての位置付けが明らかにされています。
近年、インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染、伝播していくために不可欠な、ウイルス表面に存在するノイラミニダーゼの作用をブロックすることによって、増殖したインフルエンザウイルスが細胞外へ出て行くことを阻害する抗インフルエンザウイルス剤が開発されました。ノイラミニダーゼはA、B型に共通であることから、A型、B型インフルエンザ両方に効果があります。現在2種類の薬剤が使用可能です。吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)と経口薬であるリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)は、平成13年2月より健康保険の適応となり、平成14年4月からはリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)ドライシロップが健康保険の適応となり、1歳以上の小児で、使用可能となっています。重篤な副作用は、アマンタジンに比べ少ないとされていますが、消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛など)の副作用が報告されています。また最近、リン酸オセルタミビルにおいても耐性ウイルスの出現頻度が報告されました。アマンタジン耐性、オセルタミビル耐性となったインフルエンザウイルスによる感染が容易に生じるかどうかは不明ですが、いずれにせよむやみな使用は慎むべきと考えられます。
これらの抗インフルエンザウイルス薬は、発症後48時間以内に服用することにより、合併症のないインフルエンザでの罹病期間を短縮することが確認されています。ハイリスク患者においても、抗菌薬を必要とするような合併症を減少させたという報告もありますが、合併症などの重症化を予防できるかどうかについてはまだ結論は得られていません。いずれも、医師の処方が必要な薬剤です。
また、塩酸アマンタジンは催奇性が疑われるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌となっています。ザナミビル、リン酸オセルタミビルに関しては、妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、動物実験では薬剤の胎盤通過性が報告されており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合にのみ投与することとなっています。
授乳婦に投与する場合は、乳児に対する安全性も確立していませんし、乳汁中に薬剤が移行することが動物実験などで報告されていることから、投薬中の授乳を避けることが勧められます。
予防薬としては、平成16年7月にリン酸オセルタミビルに対し、成人および13歳以上の小児を対象に、効能追加が承認されました。米国の成績ですが、予防効果は82%と報告されています。ただし、その使用に関しては、様々な条件があります。その条件とは、(1)インフルエンザを発症している患者と同居する高齢者や慢性疾患をかかえるいわゆるハイリスク患者を対象としている、(2)医療保険の給付対象とならない、(3)医師の処方が必要である、などです。また、用法・用量も異なっており、治療に使用する場合は1日2回、1回75mg(5日間)であるのに対して、予防投与の場合は1日1回75mg(7日間〜10日間)です。リン酸オセルタミビルの予防投与はワクチンによる予防に置き換わるものではありません。
Q.6:1歳未満の乳児がインフルエンザに罹った場合、リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)を投与してもいいのですか?
リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)の添付文書において、幼小児の用法及び用量は定められていますが、乳児に対する用法及び用量は定められていません。1歳未満の乳児に対する本剤の投与については、禁忌とされているわけではありませんが、承認時において1歳未満の乳児に関する十分なデータがなかったことから、添付文書に「1歳未満の患児に対する安全性及び有効性は確立していない」と記載され、注意喚起がなされているところです。
一方、米国ロシュ社が実施した動物実験において、1000mg/kg(日本で幼小児に対して通常使用する量の500倍の量)のリン酸オセルタミビルを生後7日目の幼若ラットに投与したところ、脳内の薬物濃度が成熟したラットの約1500倍高くなるという結果であったことが、平成15年末に明らかとなりました。その理由として幼若ラットでは血液脳関門が未熟である可能性が考えられていますが、この実験結果のみからヒトの乳児における臨床的な問題、危険性を明確に推察することはできず、現時点で1歳未満の患児に対する投与を禁忌とするだけの十分な根拠にはならないと考えています。
このような状況において、1歳未満の乳児に対する本剤の投与については、禁忌ではないものの、安全性及び有効性が確立していないこと、また、幼若ラットの試験において薬物の脳内への高濃度の移行が確認されたとのデータがあることを踏まえて、インフルエンザと診断された患児においてリスクとベネフィットを十分考慮し、かつ、患児の保護者等に薬剤名、服用方法、効能、特に注意を要する副作用及び本剤の1歳未満の患児に対する安全性及び有効性が確立していないことなどについて丁寧に説明し、同意を得た上で、慎重に投与すべきです。(照会先:医薬食品局安全対策課)
Q.7:インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。
解熱剤には、インフルエンザに罹っているときは使用を避けなければならないものがあります。例えば、アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬は、15歳未満のインフルエンザ患者へは投与しないことになっています。
(サリチル酸系解熱剤関連リンク)
医薬品・医療用具等安全性情報No.151「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI151d.html#1
医薬品・医療用具等安全性情報No.167「サリチル酸系製剤の小児に対するより慎重な使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI167d.html#1
ジクロフェナクナトリウムを含む解熱剤についても、15歳未満のインフルエンザの患者へは投与しないことになっています。また、平成11年度のインフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班のよる研究では、インフルエンザ脳炎・脳症を発症した患者においてジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸の使用群が、解熱剤未使用群と比較してわずかながら有意に死亡率が高いと報告され、平成12年度の調査では、ジクロフェナクナトリウムの使用群と他の解熱剤使用群との比較をした結果、ジクロフェナクナトリウムの使用群についてより高い有意性をもって死亡率が高いことが示されました。また、本症の脳の病理学的検査が行われ、脳血管に損傷が生じていることが特徴的に見出されました。この研究結果を踏まえ厚生労働省では、ジクロフェナクナトリウムについて、明確な因果関係は認められないものの、インフルエンザ脳炎・脳症患者に対する投与を禁忌とすることとし、ジクロフェナクナトリウムを含有する解熱剤を製造、販売する関係企業に対し、使用上の注意の改訂等を指示しました。
(ジクロフェナクナトリウム関連リンク)
厚生労働省発表資料「小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について」(平成13年5月30日)
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/PMDSI_010530_2.pdf
医薬品・医療用具等安全性情報No.163「インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウム製剤の使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI163d.html#16
メフェナム酸を使った解熱剤についても、厚生労働省が主催した会議における小児科の医師、インフルエンザ脳炎・脳症の研究者などの意見の一致に基づいて、アスピリン、ジクロフェナクナトリウムと同様に15歳未満の小児のインフルエンザに伴う発熱に対して投与しないことになっています。
(メフェナム酸関連リンク)
厚生労働省発表資料「インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について」(平成13年5月30日)
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/PMDSI_010530_1.pdf
厚生労働省医薬品情報提供システム
使用上の注意改訂情報(平成13年6月15日)
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20010615.html#1
日本小児科学会では平成12年11月に、小児のインフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればより危険の少ないアセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである旨の見解を公表しました。平成16年10月時点では、成人のインフルエンザに対する解熱剤投与に関しての勧告は出されておらず、医師の判断に委ねられています。参考までに、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸がインフルエンザ発症時の解熱剤として小児への使用が禁止されている理由のひとつとして、これらの薬剤が血管内皮細胞障害を修復する酵素の働きを抑制するため、脳症を発症した場合に重症化することが予想されている点があります。成人ではインフルエンザ脳症を発症する頻度は低いとされていますが、これらの薬剤の作用機序は同じであるため、脳症発症時には同様のリスクを考慮すべきであると考えられます。
なお、医療機関での処方薬は、医師が患者の状態を診察して、その状態に合ったものを必要な量処方しており、別の人に処方された薬はもちろん、当人であっても別の受診時に処方されて使い残したものを使用することは避けるべきです。しかし現実問題として、時に家庭内や知人間で、他人に処方された薬を使用する事があり得ますので、普段からインフルエンザの発熱の際には使用してはいけない薬剤があるといった情報の提供を行うことが重要です。
別の疾患にかかったときに医療機関で処方された解熱剤の使用、特に家庭に残っているものを、処方された以外の疾患や他の方に使用しないよう指導することが大切です。
また、市販の風邪薬や解熱鎮痛薬の一部にはアスピリンなどのサリチル酸系薬剤などの、15歳未満の小児に対し原則的に使用すべきでない成分を含んだものもあり、医療機関を受診するまで差しあたっての処置として使用する際も、使用上の注意をよく読んで用いて下さい。
Q.8:インフルエンザの予防法について教えてください。
予防の基本は、流行前にワクチン接種を受けることで、欧米では一般的な方法であり、本邦でも年々ワクチン接種率の上昇が見られてきています。インフルエンザワクチンは、罹患した場合の重症化防止に有効と報告されています(Q19)。
インフルエンザは、罹患している人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫と共に放出されたウイルスを、鼻腔や気管など気道に吸入することによって感染します。インフルエンザが流行してきたら、特に高齢者や慢性疾患を持っている人や、疲労気味、睡眠不足の人は、罹患したとき重症化する可能性が高くなるので、人混みや繁華街への外出を控えることも効果があります。
空気が乾燥すると、インフルエンザに罹患しやすくなります。乾燥により咽頭粘膜のウイルス粒子に対する、物理的な防御機能が低下します。外出時にはマスクを利用したり、室内では加湿器などを使ったりして適度な湿度(50〜60%)を保ちましょう。常日ごろからバランスよく栄養をとることも大切です。外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せておすすめします。また、インフルエンザが飛沫感染であることから、インフルエンザに罹患し、咳嗽などの症状のある方は特に、周囲への感染拡大を防止する意味から、マスクの着用が推奨されます。
なお、海外でアマンタジンを医療従事者などの発症予防に用いた報告などもありますが、抗インフルエンザウイルス薬の予防効果については国内での調査がまだ十分に行われておらず、現在のところ、予防内服は推奨されていません。平成16年に認可されたリン酸オセルタミビルの予防投与に関してはQ5をご覧下さい。
Q.9:インフルエンザに罹患後、どのくらいの期間学校あるいは職場を休めばよいのでしょうか?
一般的にインフルエンザウイルスに感染し、発症後3〜7日間ウイルスを排出すると言われています。この期間に患者は感染力があるといえますが、排泄されるウイルス量は経過とともに減少し、排泄期間の長さには個人差があります。抗インフルエンザ薬の内服によって発熱期間は通常1〜2日間短縮され、ウイルス排泄量も減少されますが、解熱後の感染力が同じように短縮されるとは限りません。
学校保健法では、「解熱した後2日を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としていますが、「ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、この限りではない」となっており、医師の裁量が認められています。また、職場復帰の目安については決まった規則や取り決めはありません。
インフルエンザ罹患後には体力等の低下もありますので、以上のような点を考慮の上、いずれの場合も無理をせず十分な体力の回復ののちに、復帰するのが妥当と考えられます。また、咳などの症状が続いている場合には、咳やくしゃみをする際にはハンカチやティッシュで口元を覆う、あるいはマスクをするなど、周囲への配慮が望まれます。
Q.10:インフルエンザ患者の病室や衣類の管理はどのようにしたらよいでしょうか?
基本的にインフルエンザは飛沫感染であり、特別な条件下では飛沫核感染もあると言われています。飛沫というのは、1〜2メートル以上は飛びませんし、患者がマスクをしていれば飛沫の発生は最小限に抑えられます。また、手指を介した接触感染もありますので、手洗いは重要です。しかし、狭い気密な部屋などでは、比較的長くウイルスが浮遊することもあり得る(飛沫核感染)ので、時々換気をすること、部屋の湿度を適度に保つことなどは意義があります。インフルエンザウイルスには、ほとんどの消毒薬が有効です。また、十分な湿度があれば生存期間も短いので、通常の清掃で十分だと考えられますが、あきらかな目に見える呼吸器分泌物(痰やつばなど)による汚染がある場合には、通常の消毒薬により消毒しておくほうがよいでしょう。
インフルエンザを発症中に使用した衣服にはウイルスが付着していることが予想されますが、これまでの知見ではこれから感染を起こすことはまれだと考えられています。使用後は、通常の洗濯をして日なたに干しておけばウイルスの感染性は消失します。
●ウイルス
Q.11:インフルエンザウイルスについて教えてください。
インフルエンザウイルスは、直径1万分の1ミリ(100nm)の多形性のオルソミクソウイルス科のRNAウイルスです。ウイルスは細菌とは異なり、生きた細胞の中でしか増殖できないため、インフルエンザウイルスは空気中や土壌中などの細胞外では増殖しません。インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合は、鼻腔や咽頭粘膜表面の上皮細胞にあるシアル酸に吸着し、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれたのち、膜融合によってリボヌクレオプロテイン(RNP)が細胞内に放出されます。このRNPは細胞核へ輸送され、その中で増殖したのちに、ウイルス粒子の形でノイラミニダーゼの働きにより細胞から切り離され、細胞外へ放出されます。
インフルエンザウイルスは、核蛋白(NP)と膜蛋白(M)の抗原性に基づいて、A,B,C型の3つに大別されます。A型はさらに、ウイルス粒子表面のHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)という糖蛋白により、多くの亜型に分けられます。B型も同様の糖蛋白を持っていますが、1つの亜型しかありませんし、C型はウイルス粒子表面にHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)と呼ばれるひとつの糖蛋白しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません。HAとNAの2つの糖蛋白の抗原性の変異で、大きな流行が起こることがあるとされています。歴史的にA型が大きな流行を起していますが、B型もヒトに感染し流行を起こします。C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。
B型とC型の主な宿主はヒトで、まれにB型はアザラシ、C型はブタに感染すると言われています。一方A型は、ヒトを含むほ乳類や鳥類に広く分布し、水禽類、特にカモが自然宿主と考えられています(Q12)。この鳥型のインフルエンザウイルス(A/H5N1,A/H7N7など)がヒトに感染した例も報告されています(高病原性鳥インフルエンザQ&A参照)。
Q.12:インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?
A型やB型のインフルエンザウイルスでは、ウイルス粒子表面から棘状に突出した、スパイク蛋白と呼ばれる、HA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の糖蛋白が、ウイルスの感染あるいは細胞内での増殖後のウイルスの放出に重要な働きをしています。
A型のインフルエンザウイルスでは、現在HAは15種類、NAは9種類が報告されています。これらが様々な組み合わせで、複数の亜型として、ヒトや、ブタ、トリなどの多くの宿主に広く分布しています。例えば、A香港型といわれるウイルスはHAが3、NAが2という番号の組合せでH3N2となり、Aソ連型はH1N1です。いままでの流行から、H1、H2、H3はヒトの間で感染が起こり、流行株となりえることが知られています。
また、A型は多種の宿主を持っており、人と動物の共通感染症としてとらえられています。なかでもカモは、現在知られているすべてのHA亜型とNA亜型のA型インフルエンザウイルスを保有しており、インフルエンザウイルスのいわゆる「運び屋」として注目を浴びています。これらのウイルスが他の水禽、家禽、家畜、そしてヒトでのA型インフルエンザウイルスの供給源となり、新しい亜型のウイルスがヒト世界に侵入し、ヒト−ヒト間で効率よく感染できるようになると、これが新型インフルエンザウイルスと呼ばれ、パンデミック(世界的な大規模流行)を起こす原因となります(Q17)。
一方、B型のインフルエンザウイルスではHA,NAはそれぞれ1種類で、HA,NAの組合せによる分類は行われませんし、C型もHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません(Q9参照)。
このように、ヒトがあるウイルス型に対して免疫を獲得しても、異なるスパイク蛋白をもつウイルスに対してはその免疫が効かず感染・発症してしまうことが考えられるので、1シーズンにA/ソ連型(H1N1)インフルエンザにかかったあとA/香港型(H3N2)にかかったり、A型インフルエンザにかかったあとB型インフルエンザにかかったりすることがおこります。
Q.13:インフルエンザウイルスの変異について教えてください。
インフルエンザウイルスのHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)は、同じ亜型の中でもわずかな変化が常に見られます。これは、A/香港型(H3N2)のインフルエンザウイルスでも、その年によってシドニー株類似ウイルスといわれるものであったり、パナマ株類似ウイルスといわれたりするもので、これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異と呼びます。車のマイナーモデルチェンジのようなもので、抗原性に多少の変化がありますので、巧みにヒトの免疫機構から逃れ、感染を受けた場合に今までの免疫で防げる場合もあれば、防げない場合もあります。このため、ヒトによっては毎年のようにA型インフルエンザに感染することも起こりますし、インフルエンザの流行も毎年起こっています。この変異の幅が大きいほど宿主免疫の効果は低くなり、感染して発症した時の症状も強くなるとされています。
A型は上述のマイナーチェンジを続けながら数年から数十年単位で流行が続きますが、突然まったく別の亜型に取って代わることがあります。いわばフルモデルチェンジで、新型インフルエンザウイルスが出現したことになります。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異といいます。1918年に始まったスペイン型(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に代わり、流行は11年続きました。その後1968年には香港型(H3N2)が現われ、ついで1977年ソ連型(H1N1)が加わりました。現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっており、すでにA/香港型(H3N2)が30年、A/ソ連型(H1N1)が20年連続している状況では、これまでのインフルエンザの変化の歴史からみて、いつ新型に置き換わってもおかしくないため警戒を高めることが必要です。新型インフルエンザに免疫を持っているヒトはいないため、出現した場合には多くのヒトがインフルエンザにかかり、またその合併症による被害が甚大であろうことが予測されるため、世界的に対策が進められています。
●インフルエンザの流行
Q.14:インフルエンザの疫学的特性は何ですか?
インフルエンザは流行性の疾患で、流行時には短期間に全年齢層を巻き込み、膨大な数の患者を発生します。本邦では例年、11月から4月ごろまでの冬から早春にかけて流行しており、近年の流行のピークは、2月初め頃で、12月から患者数が増え始め、4月には終息することが多いようです(IDWR過去10年との比較グラフ)。http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html
インフルエンザは、平成11年4月施行、平成15年11月改正の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の改正で第五類感染症の定点報告疾患となっています。インフルエンザの患者情報は、全国5,000の定点医療機関(小児科3,000と内科2,000)から法に基づいた報告が週単位で集められています。臨床診断に基づいて、1.突然の発症、2.38℃を越える発熱、3.上気道炎症状、4.全身倦怠感等の全身症状の、四つの規準を全て満たすインフルエンザ様疾患と、必ずしも臨床の規準は満たしていないが、ウイルスの分離や抗体価の検査で、インフルエンザと診断されたものが報告されています。2003/2004シーズン(11月〜4月)では、約79万人、定点当たり約150人の報告がありました。この報告数は、実際の患者数の一部分ですので、定点からの報告を基に同シーズンの全国での罹患数を推計したところ約923万人の方がインフルエンザに罹患し医療機関を受診したと考えられます。
患者数の報告はこのほか、全国の保育所、幼稚園、小学校、中学校等における休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を把握するための「インフルエンザ様疾患発生報告」があります。この10年ほどを見ると、多い年では約128万人(1997/1998シーズン)が報告されており、また2003/2004シーズンでは約30万人が報告されています。
性別での罹患状況には特に差はありませんが、年齢別では10歳未満の小児の罹患が多く報告されています(IASR最新版へ)。下図は、厚生労働省発表の人口動態統計にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡として届けられたものです(平成16年は暫定数)。近年は死亡のほとんどを高齢者が占める傾向が続いています。また、インフルエンザの大きな流行があると、非流行時に比べ死亡者数が著しく増加する傾向が認められます。世界保健機関(WHO)は、これを「超過死亡(excess death, excess
mortality)」と呼ぶ概念で、インフルエンザの流行の社会への影響の大きさを評価する際に利用することを推奨しています(IASR Vol24No11 p288-289)。2003/2004シーズンは2,400人と超過死亡も少なく、中規模の流行であったことがわかります。

また、近年九州地方から北上する傾向がみられましたが、2003/04シーズンは東北地方から定点当たりの報告数が増え始め南下しており、流行が開始する地域についての科学的な説明はありません。
流行や検出の現状は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
Q.15:インフルエンザの流行の歴史について教えてください。
インフルエンザの流行は歴史的にも古くから記載されていますが、科学的に立証されているのは1900年ごろからで、数回の世界的大流行が知られています。中でも、1918年に始まった「スペインインフルエンザ(A/H1N1亜型)」は被害の甚大さできわだっています。当時、インフルエンザによる死亡者数は全世界で2,000万人とも4,000万人ともいわれ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています。その後、1957年にはアジアインフルエンザ(A/H2N2亜型)が、1968年には香港インフルエンザ(A/H3N2亜型)が世界的な大流行を起こしています。次いで1977年にはA/ソ連型(H1N1亜型)が加わり、現在はA型であるH1N1亜型(一般にA/ソ連型と呼ばれます)とH3N2亜型(一般にA/香港型と呼ばれます)、及びB型を加えて3種類が世界中で共通した流行型になっています。
1種類あるいは2種類の型の混合流行であることが多いインフルエンザですが、日本では2000/2001シーズン、2001/2002シーズンはH1N1型、H3N2型、B型の3種類すべてが混合流行しました。流行するウイルスの型の数と比率は、各国地域で、また、その年毎に異なっています。
Q.16:今年流行するインフルエンザはどの株ですか?
日本では、2000/2001シーズン、2001/2002シーズンは、2種類のA型インフルエンザとB型インフルエンザの3種類の型のウイルスが、同じシーズンの中で検出されていましたが、2002/2003シーズン、2003/2004シーズンは従来のように、A/H3N2(香港)型とB型2種類の流行のとなり、H1N1(ソ連)型はほとんど検出されませんでした。2002/2003シーズンは、ワクチン株とは若干異なる福建株のA/H3N2(香港)型とビクトリア系統株のB型が11月終わり頃からほぼ同時に流行し始め、A型が1月の後半に、B型が1月末から3月にまで至る長いピークがみられました。2003/2004シーズンは、ほとんどが前シーズンと同じ福建株のA/H3N2(香港)型が12月初旬から流行し始め、1月末にピークがみられました。山形系統株が主体のB型も同時に流行しましたが、その数はA/H3N2(香港)型比べて非常に少なく(約5%)、3月中旬に流行は終息しました。
患者分離株の分析と、南半球の流行状況も考慮して、2004/2005シーズンはA型については昨シーズンと同じ種類の株が、B型は異なる系統株が流行する可能性が高いと判断され、今年のワクチンには、A/H1N1(ソ連)型のニューカレドニア株、A/H3N2(香港)型として福建株に対応できるワイオミング株、B型の上海株(山形系統株に対応できる)を混合したものが用意されました(IASR Vol25No9 p238-239)。
全国の流行や検出の現状は、地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
各地方のインフルエンザウイルスの情報は、患者の皆さんと全都道府県にあるインフルエンザ定点医療機関の協力によってウイルス検査のための検体が集められ、地方衛生研究所で分離検査が実施されています。ピーク時には週1,000件以上が分離されています。ウイルスの分離は時間がかかるので患者の発生より遅れてそのデータが集まってきますが、ウイルス検出の状況は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
○地方衛生研究所・保健所ホームページへのリンク:
http://idsc.nih.go.jp/phi/index.html
http://idsc.nih.go.jp/hcl/index.html
参考:我が国のインフルエンザに関連する調査
Q.17:新型インフルエンザは現れるのでしょうか?
スペインインフルエンザ(A/H1N1亜型)が現れたときは、大規模な流行と甚大な数の死者を出しました。今後、新型インフルエンザが現れ、流行した場合、これに対して免疫を持っている人はいませんし、また事前に接種された予防接種の効果はほとんど期待できないため、かなりの数の罹患者とそれに伴う死亡者も増加がみられることが予想されます(Q13インフルエンザの変異参照)。アメリカでは8〜20万人の死者がでると予測されており、本邦でも3〜4万人の死者が出ることが懸念されます。
最近特に、ヒトにも病原性の高い鳥型のインフルエンザウイルスがヒト社会に定着し、ヒト−ヒト感染するようになり、新型インフルエンザとなることが懸念されています。鳥型インフルエンザ(A/H5N1亜型)ウイルスによる患者報告を例にあげると、1997年に香港では、入院加療を受けた18症例中6例が肺炎の合併などにより死亡し、香港政府は1997年12月末、140万羽のニワトリを殺処分しました。このウイルスはヒトからヒトに感染したものではなく、恐らく感染しているニワトリからヒトに感染したものと考えられています(IASR Vol.18 No.9 http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/211/dj2111.html)。2003年には、中国南部へ旅行した家族の感染が報告されており、こちらはヒトからヒトへの感染が疑われています(IASR Vol24 No3 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/fr2771.html)。2003/2004年のタイ、ベトナムを中心とした東アジアでの家禽類を中心とした鳥インフルエンザ(A/H5N1)の流行では、少数ではありますがヒトでの感染が確認されています。2004年10月20日現在43症例が報告され、このうち31例が死亡しています。また、2事例においてヒトからヒトへの感染が完全に否定できず、調査研究が続けられています(http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html)。2003年2月にはオランダで、高病原性鳥インフルエンザ(A/H7N7)が鶏の集団で流行したことに関連して、鳥型インフルエンザウイルス(A/H7N7)のヒトへの感染が確認され、1例の重症肺炎による死亡者と82例の結膜炎を中心とした感染者が報告されています。このうち1事例において、家庭内でのヒトからヒトへの感染が確認されています(IASR Vol24 No6 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/280/fr2801.html)。
この他にも、2001/2002シーズンに英国、イスラエル、エジプトなどで初めてA/H1N2がヒトから分離されました。平成14年には日本でも分離されています。この亜型は、鳥型のインフルエンザウイルスとは異なり、従来のヒトに感染するインフルエンザウイルスのA/H1N1とA/H3N2が交雑したものなので、これまでのインフルエンザHAワクチン(A/H1N1)で効果があると考えられています(IASR Vol23 No8 http://idsc.nih.go.jp/iasr/iasr-gg1.html)。2001/2002シーズン以降A/H1N2亜型ウイルスは姿を消しています。
これらのウイルスがこのままヒトの前から姿を消してしまうのか、あるいは再び勢いを盛り返して流行するかは予断を許さず、さらにまたどのようなメカニズムでトリのウイルスが直接ヒトへ感染を起こしたのか解明が必要です。さらに、こうした経路以外の新型インフルエンザウイルスの出現の可能性なども予想されることから、サーベイランス体制を強化して監視していくことが必要です。
新型インフルエンザに対する国の対策については、平成16年に設置された厚生労働省の「新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会」がまとめた報告書が、厚生労働省のホームページに掲載されています。
新型インフルエンザ対策報告書:http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0903-1.html
Q.18:インフルエンザの外国での流行状況を教えてください?
インフルエンザは世界中で流行していますが、温帯地方では冬に(南半球では7〜8月)流行が見られ、熱帯・亜熱帯地方では国により様々な動態をとり、年間を通じて低レベルの発生がみられる国や、複数の流行をみる地域もあります。流行株は国によって若干の差はありますが、大きな差はありません。アメリカ合衆国では、毎年数百万人、人口の10〜20%が罹患すると推計されており、年間に約2万人もの死者が出ていると報告しています(CDC)。世界の流行状況は、WHOが発行しているホームページ:http://rhone.b3e.jussieu.fr/flunet/www/などで知ることができます(インフルエンザのページにあるリンクをご活用ください)。
●ワクチン接種
Q.19:インフルエンザワクチンの接種は効果があるのですか?
インフルエンザワクチンの接種を行うことで、インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、健康被害を最小限にとどめることが期待できます。このワクチンの効果は、年齢、本人の体調、そのシーズンのインフルエンザの流行株とワクチンに含まれている株の合致状況によっても変わります。
米国では予防接種諮問委員会(ACIP)から、ワクチン株と流行株が一致している場合には、65歳以下の健常成人での発症予防効果は70〜90%、施設内で生活している高齢者での発症予防効果は30〜40%と下がりますが、入院や肺炎を防止する効果は50〜60%、死亡の予防効果は80%みられたと報告されています。一方、自宅で生活している高齢者の場合は、60歳以上で発症予防効果は58%程度で、70歳以上ではさらに低下するであろうと報告されています。また、1〜15歳の小児では77〜91%、3〜9歳では56%、6〜24ヵ月では66%の発症予防効果などが報告されています。詳しくは、ACIPの報告書("Prevention and
Control of Influenza"MMWR 2004;53:RR-6)をご参照ください。
日本では、厚生科学研究費による「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊(国立療養所三重病院))」の報告によると、65歳以上の健常な高齢者については約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったとしています。また、同じく厚生科学研究費による「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に対する研究(主任研究者:神谷 齊(国立療養所三重病院)・加地正朗(久留米大学))」では、発熱を指標とした場合1歳以上で6歳未満の幼児では約20〜30%の発病を阻止する効果があり、1歳未満の乳児では対象症例数も少なく、効果は明らかでなかったとしています。また、日本臨床内科医会の河合直樹らは、0〜15歳では1回接種、2回接種それぞれで、発症予防効果は68%と85%、16〜64歳では55%と82%と報告しています。
インフルエンザに対する治療薬も実用化されていますが、感染前にワクチンで予防することがインフルエンザに対する最も有効な防御手段です。特に65歳以上の方や基礎疾患を有する方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)では、インフルエンザが重症化しやすいので、かかりつけの医師とよく相談のうえ、接種を受けられることをお勧めします。
また、インフルエンザの流行株は毎年変化しますし、ワクチン接種による重症化の予防に有効な免疫レベルの持続期間はおよそ5ヵ月となっていますので、毎年シーズン前にワクチン接種を受けることが必要です(Q23参照)。今年流行が予測されるウイルスにあったワクチンを、インフルエンザが流行する前に接種し、免疫を高めておくことが大切です(Q20,Q21参照)。
なお、当然のことですが、インフルエンザワクチン接種ではSARSはもちろん、他のウイルスによる「かぜ」(かぜ症候群)にも効果はありません。
Q.20:インフルエンザワクチンの製造やワクチン株の選定はどのように行われているのですか?
日本で使用されているワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを発育鶏卵の尿膜腔内に接種して培養、増殖させ、漿尿液から遠心にて濃縮・精製し、ウイルス粒子をエーテル等で処理し、その副反応の原因と考えられる脂質成分の大部分を除去したHA画分浮遊液とし、更にホルマリンで不活化(病原性をなくすこと)したHAワクチンです。このように、インフルエンザワクチンは有精卵から作られるため、急な大量生産は出来ませんので、毎年種々の状況を検討し、生産量が慎重に決められています。
日本のインフルエンザワクチンに含まれるウイルス株は、シーズン前の人々の抗体保有状況、昨シーズンや世界各国のインフルエンザの流行状況を考慮し、WHOの推奨株を参考に、毎年、専門家会議の結果を受けて厚生労働省によって決定されます。現在のインフルエンザワクチンには、A型2種類およびB型1種類が含まれており、A/H1N1(ソ連)、A/H3N2(香港)、B型のいずれの型にも効果があります。ワクチンは流行するウイルス株を予測して生産されますが、流行するウイルス株は毎年変わりますので、ワクチンに含まれている株とその年の流行株が異なった場合には、ワクチンの効果は減少します。最近の10年間は予測と実際に流行したウイルス株はほぼ一致しており、有効なワクチンが生産されています。平成16年度のインフルエンザHAワクチン製造株については、A型株:A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)及びA/ワイオミング/3/2003(H3N2)、B型株:B/上海/361/2002が決定されました。
Q.21:インフルエンザワクチンはいつごろ接種するのが効果的でしょうか?
インフルエンザに対するワクチンは、個人差はありますが、接種からその効果が現れるまで通常約2週間程度かかり、約5ヶ月間その効果が持続するとされています。また、過去に感染歴やワクチン接種歴の無い場合と、免疫学的記憶のある場合のブースターとではワクチンの効果が現れるまでに差があると考えられています。多少地域差はありますが日本のインフルエンザの流行は12月下旬から3月上旬が中心になりますので、12月上旬までには接種をすまされることをお勧めします。2回接種の場合は、2回目は1回目から1〜4週間あけて接種しますので、1回目をさらに早めに接種した方が良いでしょう。
Q.22:インフルエンザワクチンの接種はどこでできますか?
地域の医療機関、かかりつけ医などでインフルエンザワクチンを受けることが可能です。任意接種では接種期間に制限はありませんが、予防接種法に基づく接種やワクチン接種の奨励事業などでは、各自治体によって期間や費用の点でも異なることがあります。ワクチン接種可能な医療機関や地域での取り組みについては、それぞれの地域の保健所、医師会、医療機関、かかりつけ医などに問い合わせていただくようお願いします。
Q.23:インフルエンザワクチンの接種の対象となるのは、どのような人でしょうか?定期接種の場合と任意接種の場合に分けて説明して下さい。
予防接種法による定期接種では、重症化と死亡の報告が多い65歳以上の高齢者の方と、60〜64歳で基礎疾患(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症など。一定の基準があります)がある方に接種が勧奨されています。
任意接種では、医学的に接種が不適当であると考えられた場合を除けば、基本的にはインフルエンザの発症と重症化を防ぎたいと希望される方すべてが対象となります(Q19参照)。
ことに基礎疾患がある方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(疫抑制剤による免疫低下も含む)など)は、ワクチン接種を考慮すると良いと考えられます。
免 小児については、平成16年11月に日本小児科学会より、「1歳以上6歳未満の乳児については、インフルエンザによる合併症のリスクを鑑み、有効率20〜30%であることを説明したうえで任意接種としてワクチン接種を推奨することが現段階で適切な方向であると考える」との見解が出されています。根拠としては、1歳未満児については対象数が少なく、有効性を示す確証は認められなかったこと、1歳以上6才未満児については、発熱を指標とした有効率は20〜30%となり、接種の意義が認められたことがあげられています(Q19参照)。
小児において気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの基礎疾患を有している場合、6ヶ月から18歳の小児で長期間アスピリンを服用している場合(インフルエンザによってライ症候群に進行する危険があるため)、集団生活に入っている場合なども、インフルエンザに罹患した場合に重症化や合併症のリスクが高くなるため、接種を考慮して良いと考えられます。
また、これらの方と身近で接触する方も、「インフルエンザをうつさない」という考え方から接種を考慮しても良いと考えます。
なお欧米では6ヵ月から24ヵ月未満の乳幼児もインフルエンザの重症化率が高いと報告されており、ワクチン接種による予防が望ましいと考えられており、米国などでは接種を勧めています。
いずれの場合も、かかりつけの医師などと相談のうえ、お受け下さい。
Q.24:インフルエンザワクチンの接種を受けることが適当でない人や接種時に注意が必要な人はありますか?
1)予防接種法に基づく定期接種の不適当者としては、予防接種実施規則に以下のように示されています。
<予防接種実施規則第6条による接種不適当者(抜粋)>
- 明らかな発熱*を呈している者
- 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
- 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明らかな者
- その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者*:通常は、37.5℃を超える場合をいいます。
また、既往などから、接種の判断を行うに際して注意を必要とする方(接種要注意者)がおられますが、この方々は接種禁忌者ではありません。ただし、接種を受ける方の健康状態及び体質を勘案して接種の可否を判断し、接種を行う際には被接種者に対して、改めて十分に効果や副反応などについて説明し、被接種者が十分に理解した上での接種希望であることを確認した上で、注意して接種を行う必要があります。詳細については「インフルエンザ予防接種ガイドライン(平成15年9月改編)」をご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html
<インフルエンザ予防接種実施要領に基づく接種要注意者>
- 心臓血管系疾患、じん臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を有することが明らかな者
- 前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
- 過去にけいれんの既往のある者
- 過去に免疫不全の診断がなされている者
- 気管支喘息のある患者
- インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者
2)インフルエンザワクチン接種の適応に関しては、年齢の下限はありませんが、通常生後6ヶ月未満の乳児にはワクチンを接種しません。これは、ワクチンの効果に関しておよび、ワクチン接種の副反応に関しての研究がまだ少なく、十分な知見が得られていないこと、また、この月齢までは母体由来免疫の効果が期待できることに由来しています。このような場合には、同居する家族がワクチンなどでインフルエンザを予防することで、家庭内にインフルエンザウイルスが持ち込まれることを防ぐといった方法が考えられます。
3)インフルエンザワクチンはウイルスの病原性をなくした不活化ワクチンであり、胎児に影響を与えるとは考えられていないため妊婦は接種不適当者には含まれていません。しかし、妊婦又は妊娠している可能性の高い女性に対するインフルエンザワクチンの接種に関する、国内での調査成績がまだ十分に集積されていないので、現段階ではワクチン接種によって得られる利益が、不明の危険性を上回るという認識が得られた場合にワクチンを接種するとされています。一般的に妊娠初期は自然流産が起こりやすい時期であり、この時期の予防接種は避けた方がよいと考えられます。
一方米国では、「予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on
immunization Practices)」の提言により、妊娠期間がインフルエンザシーズンと重なる女性は、インフルエンザシーズンの前にワクチン接種行うのが望ましいとされています(MMWR 2004;53(RR-6)参照)。
これまでのところ、妊婦にワクチンを行った場合に生ずる特別な副反応の報告は無く、また、妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータも無いことから、予防接種直後に妊娠が判明しても、胎児への影響を心配して人工妊娠中絶を考慮する必要はないと考えられています。
4)熱性けいれんの既往がある方に対するワクチンの接種に関しては、日本小児神経学会の見解(平成15年5月)では、「現行の予防接種はすべて行って差し支えないが、保護者に対して接種の有用性、副反応などについての十分な説明をして同意を得ることに加え、具体的な発熱時の対策(けいれん予防を中心に)や、万一けいれんが出現した際時の対策を指導すること」となっています。詳細については、予防接種ガイドラインの「過去にけいれんの既往のある者」をご参照ください。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−3−ァ)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-3.html
5)てんかんの既往がある方に対しては、厚生労働科学研究事業の「ハイリスク児・者に対する接種基準と副反応に関する研究班」の2003年の見解では、「コントロールが良好なてんかんをもつ小児では、最終発作から2−3ヶ月程度経過し、体調が安定していれば現行のすべてのワクチンを接種しても差し支えなく、「発熱によってけいれん発作が誘発されやすいてんかん児では、副反応による発熱が生じた場合の発作予防策と万一発作時の対策を指導しておく。いずれの場合も、事前に保護者への十分な説明と同意が必要である」などと、なっています。予防接種ガイドライン「過去にけいれんの既往のある者」を参照の上、てんかんを治療している主治医あるいはその依頼に基づき、事例ごとに検討して、ワクチンを接種するか、しないかを決めるのが望ましいと考えます。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−3−ィ)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-3.html
Q.25:卵やゼラチンにアレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?
卵アレルギーの程度にもよりますが、ほとんどの場合問題なく接種できます。インフルエンザワクチンは、その製造過程において、インフルエンザウイルスの増殖に発育鶏卵を用いるために、最終製品であるワクチンの中に、ごくわずかながら鶏卵由来のタンパク成分が残って、それによるアレルギー症状がまれに起こることがありえます。しかし、近年は高度に精製され、その量は極めて微量であり、通常は卵アレルギーがあってもほとんど問題となりません。しかしながら、鶏卵を食べてひどい蕁麻疹や発疹を生じたり、口腔内がしびれたりする方や、卵成分でアナフィラキシーショックを起こしたことがあるような、重篤な卵アレルギーがある方は、ワクチン接種を避けるか、インフルエンザの罹患リスクとワクチン接種に伴う副反応リスクとを考慮して、接種前にかかりつけの医師とよく相談のうえ、接種ワクチン液による皮内反応を事前に実施するなど、十分に注意して接種することを勧めます。詳細は予防接種ガイドライン「接種しようとする接種液の成分に対して,アレルギーを呈するおそれのある者」を参照してください。
また、ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンに対するアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が報告されていましたが、現在、インフルエンザワクチンを生産している国内4社からの製品にはいずれも、ゼラチンはふくまれていません。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−5)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-4.html
Q.26:授乳中にインフルエンザワクチンを接種しても問題はありませんか?
授乳婦はインフルエンザワクチンを接種しても支障はありません。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンというタイプで、病原性をなくしたウイルスの成分を用いているため、ウイルスが体内で増えることも無く、母乳を介してお子さんに影響を与えることもありません。また、母親がワクチン接種を受けることで、乳児に直接のインフルエンザ感染の予防効果を期待することもできません(Q23参照)。また同様に、ワクチン接種による精子への影響もありませんので、妊娠を希望しているカップルの男性の接種に問題はありません。
授乳期間中にインフルエンザウイルスに感染した場合も、このウイルスは主に気道系の上皮細胞で増殖しますので、血液中にウイルスが存在することは極めて稀です。また、存在した場合でも非常に微量であると言われています。したがって、母乳中にインフルエンザウイルスが含まれ、母乳を介して乳児に感染を起こすことはほとんど無いと考えられます。
しかしながら、母親と乳児は日常から極めて濃厚に接触しているため、インフルエンザ罹患中に母乳とは関係無しに、乳児に感染するのではないかという不安の声も聞かれます。インフルエンザは主に飛沫で感染するため、1〜2メートルという近い距離での濃厚接触によって、感染の危険性が増加するというのは事実ですし、また、母乳が乳児にとって極めて重要であるというのも事実です。一方では、インフルエンザ患者は発症前からウイルスを排出しているので、母親が体調の異常に気付いたときには、すでに乳児にも感染しているかもしれません。もちろん発症後の方がウイルス量は多いので、感染の危険は増加するという指摘もあります。こういったことから、個々の状況に応じて現実的に対応することが必要でしょう。少なくとも、赤ちゃんに接触する前のや飛沫が付いた際の手洗い、授乳時のマスクなどによりできるだけの予防策をとることは合理的な方法でしょう。なお、抗インフルエンザ薬を使用した場合は、その薬剤は母乳中に移行すると言われており、服薬中に母乳を与えるのは避けることとなっています(Q5を参照)。
Q.27:インフルエンザワクチンの接種を考えたときに、ウイルス疾患に罹患したり、定期予防接種の時期と重なった場合にはどうすればよいですか?
予防接種ガイドライン(2003年改訂版:予防接種ガイドライン等検討委員会、監修 厚生労働省健康局結核感染症課)によると、「麻疹,風疹,水痘及びおたふくかぜ等に罹患した場合には,全身状態の改善を待って接種する。標準的には,個体の免疫状態の回復を考え麻疹に関しては治癒後4週間程度,その他(風疹,水痘及びおたふくかぜ等)の疾病については治癒後2〜4週間程度の間隔をあけて接種する。その他のウイルス性疾患(突発性発疹,手足口病,伝染性紅斑など)に関しては,治癒後1〜2週間の間隔をあけて接種する。しかし,いずれの場合も一般状態を主治医が判断し,対象疾病に対する予防接種のその時点での重要性を考慮し決定する。また,これらの疾患の患者と接触し,潜伏期間内にあることが明らかな場合には,患児の状況を考慮して接種を決める」となっています。つまり、これらの疾患に罹患後は、免疫能が低下していることがあるため、接種したインフルエンザワクチンに対して十分な免疫が得られない場合があり、上記のように期間をあけて接種した方が良いとされています。
小児の定期予防接種と日程が重なった場合は、基本的には定期の予防接種を優先しますが、地域でのその疾患の流行状況やインフルエンザの流行の状況からインフルエンザワクチンの接種を優先する場合もありますので、かかりつけの医師と十分ご相談のうえ判断して下さい。
定期接種に限らず、生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、BCG、水痘、流行性耳下腺炎など)であれば4週間以上、不活化ワクチンやトキソイドワクチン(DPT、DT、日本脳炎、B型肝炎)であれば1週間以上間隔をおけば、インフルエンザワクチンは接種可能となります。
またインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、インフルエンザワクチンを接種後は、1週以上間隔をおけば他のワクチン(生ワクチン、不活化ワクチンとも)接種が可能となります。
予防接種ガイドライン(2003年改訂版:予防接種ガイドライン等検討委員会、監修 厚生労働省健康局結核感染症課)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/index.html
Q.28:インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?
現在、日本で行われているインフルエンザの予防接種に使用するインフルエンザHAワクチンについては、平成12年4月に中央薬事審議会において検討が行われ、平成12年7月から薬事法上の用法・用量が以下のようになっています。
| 年齢群 | 接種用量・方法 | 接種間隔・回数 |
| 13歳以上 | 0.5mlを皮下 | 1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回接種 |
| 6歳〜13歳未満 | 0.3mlを皮下 | およそ1〜4週間の間隔をおいて2回 |
| 1歳〜6歳未満 | 0.2mlを皮下 | およそ1〜4週間の間隔をおいて2回 |
| 1歳未満 | 0.1mlを皮下 | およそ1〜4週間の間隔をおいて2回 |
65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも効果があり、2回接種による免疫の強化に関する効果(ブースター効果)についての評価は定まっていませんので、現在は1回接種が推奨されています。これは、厚生科学研究費による研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊(国立療養所三重病院))」において、高齢者(65歳以上)に対するインフルエンザワクチン1回接種法による有効性の評価を行った結果、接種を行った後の抗体価の上昇は良好であり、重症化は有意に阻止する事が可能であったという報告に基づいています。また、これらの高齢者に接種した際の重篤な全身反応はなく、局所反応も軽微でした。
なお、予防接種法により、「65歳以上の方」、「60歳から64歳までの方で、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の周りの生活を極度に制限される方、又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方」については、年1回、予防接種法による定期接種を受けることができ、万が一予防接種によると考えられる著しい健康被害にあった場合には、その1回の接種については、予防接種法による救済制度が適用されます。詳しくは次章の「予防接種法関係」をご覧下さい。
13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザの予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫による十分な効果が得られる方もあると考えられます。2回接種をしたほうがより抗体価は上昇するという報告もあり、接種回数が1回か2回かの最終的判断は、被接種者の意思と接種する医師の判断によりますので、接種の際には最近インフルエンザにかかったことがあるかどうか、最近ワクチン接種を受けたことがあるかどうかとその時期、そして現在の体調などを担当医師に十分伝え、よく相談して下さい。
なお欧米諸国では、新しい型のインフルエンザウイルスが出現しない限り、年少児を除いて、ほとんどの人がインフルエンザウイルスに対する基礎免疫を獲得しているので、1回の接種で追加免疫の効果があるとしているところがほとんどです。
Q.29:インフルエンザワクチンの接種に関するガイドラインはありますか?
平成15年9月に改編された「インフルエンザ予防接種ガイドライン」が厚生労働省から配布されています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html
Q.30:インフルエンザワクチンの接種による副反応にはどのようなものがありますか?
一般的に副反応は軽微で、10〜20%で接種局所の発赤、腫脹、疼痛をきたすことがありますが2〜3日で消失します。全身性の反応としては、5〜10%で発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などみられますが、通常は軽微で、やはり2〜3日で消失します。また、ワクチンに対するアレルギー反応として、まれに湿疹、じんましん、発赤と掻痒感などが数日見られることもあります。
また、麻疹ワクチンなどの生ワクチンと混同されることが良くありますが、現在日本で用いられているインフルエンザワクチンはQ18にあるように、不活化ワクチンですので、その接種によってインフルエンザを発症することはありません。ワクチン接種後に発熱した場合も、インフルエンザ以外の冬季に見られる呼吸器疾患に罹患した可能性もあり、必ずしもワクチンの副反応とは限りません。
卵アレルギーの人には蕁麻疹、発疹、口腔のしびれ、アナフィラキシーショックなどが現れる可能性があります(Q27参照)。その他にギランバレー症候群(GBS)、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、けいれん、肝機能障害、喘息発作、紫斑などの報告がまれにありますが、これらの疾患とワクチンとの関連については明らかになっていません。ただし、米国ではこれまでにギランバレー症候群を発症したことがある人においてはインフルエンザワクチンを接種しない様に指導されています。極めてまれですが、接種後に起こった死亡の届け出もあります。しかし、インフルエンザワクチンは毎年多くの方に接種されているために、これらの届け出例の多くは、予防接種と直接の因果関係はなく、偶然起こったものが多くを占めると考えられます。昭和51年から平成6年までの、主に小児に対して接種が行われていた頃の統計では、インフルエンザワクチン接種により引き起こされたことが完全には否定できないとして、救済対象と認定された死亡事故は約2,500万接種あたり1件でした。厚生労働省により、予防接種後副反応報告制度に基づいた報告を集計した結果が発表されていますので、詳細はそちらをご参照ください。
予防接種後副反応報告書集計報告書:
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0924-4.html
Q.31:インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるのですか?
予防接種法による定期接種の場合、予防接種を受けたことによる健康被害であると厚生労働大臣が認定した場合に、予防接種法に基づく健康被害の救済措置の対象となります。詳しくは次章の「予防接種法関係」をご覧下さい。
また、予防接種法の定期接種によらない任意の接種によって健康被害が生じた場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されますが、この場合でも厚生労働大臣の判定が必要です。
新たに創設された生物由来製剤感染等被害救済制度により、生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず、その製品が原因で感染症にかかり、入院が必要なほどの健康被害が生じた場合の救済も行われることになりました(平成16年4月1日以降に使用された生物由来製品によって生じた感染被害が対象)。
以上の救済制度の内容については、下記のウェブサイトを参照するか、あるいは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。
医薬品副作用被害救済制度:http://www.pmda.go.jp/help/index.html
生物由来製剤感染等被害救済制度:http://www.pmda.go.jp/kansen/index.html
Q.32:インフルエンザワクチン接種の費用はどうなるのですか?
予防接種については、疾病ではないので健康保険が適用されません。原則として全額自己負担となります。
ただし、65歳以上の方、及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方などは、予防接種法による定期の予防接種の接種対象となります。詳しくはQ35,Q36,Q38をご覧下さい(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、居住地の市町村あるいは東京23区の場合は区にお尋ね下さい)。各市町村(東京23区の場合は区)により予防接種期間や、自己負担額が異なりますので、個別の情報については、それぞれの地域の市町村(東京23区の場合は区)へお問い合わせください。
また、そのほかの方の接種は従来どおりの任意接種で、ご本人と医療機関との契約により行うこととなりますので、費用も全額自己負担となります(接種費用は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律により一定の価格の設定が禁じられており、医療機関により算定方法が異なりますので、接種を受ける医療機関へお問い合わせください)。使用されるワクチンはすべて、厚生労働省の決定したワクチン株を使用し、検定を受けていますので、ワクチンの品質に差はありません。
Q.33:インフルエンザワクチンは国によって違うのでしょうか?
インフルエンザワクチン株の選定はワクチンを生産するほとんどの国で、WHOにより2月中旬に出される「北半球次シーズンに対するワクチン推奨株」に基づき、自国およびその他の国々における諸情報を総合的に判断して決定しています。つまり、各国(各ワクチン生産会社)が独自に決定することになりますが、基本的にWHOの推奨株の情報をもとにしているため、ワクチン株が国によってまったく異なるということはこれまでほとんどありませんでした。また、毎年のインフルエンザシーズンにおいて、国ごとに主に流行するインフルエンザウイルスの型(A/ソ連型、A/香港型、B型)が異なることはありますが、流行した3つの型における抗原性が、国ごとに大きく異なっていたことはほとんどありませんでした。流行しているインフルエンザウイルスの抗原性がワクチン株と同じである限り、たとえば日本で接種したワクチンも、米国で流行しているインフルエンザに効果がありますし、逆に米国で接種したワクチンも、日本で流行中のインフルエンザに対して効果があることになります。但し、ワクチンの製造方法や添加物などは国によって若干の違いがあるため、免疫原性(抗体産生の効果)や副反応の頻度には差があります。
インフルエンザワクチンは個人防御のために行うもので、外国への出張予定者も、インフルエンザウイルスに感染時に発症や重症化を防ぐためには、インフルエンザワクチンの接種は効果があります(Q1参照)。
参照:「2003-04シーズンのインフルエンザ予防接種:SARSへの配慮を含めた提言」
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/sars03w/07infl-vc.html
Q.34:インフルエンザワクチンでインフルエンザ脳症を予防できますか?
インフルエンザ脳症に対するインフルエンザワクチンの予防効果については、厚生労働科学研究「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療および予防方法の確立に関する研究」(主任研究者:森島恒雄(岡山大学))のもとでデータが蓄積されつつあります。これまでの調査では、インフルエンザ脳症を発症した事例の間で、ワクチン接種の有無について有意な差は無く、インフルエンザワクチンの接種によるインフルエンザ脳症の予防、インフルエンザ脳症の重症化の予防について、明らかな効果は見いだされていません。
今後更に研究・調査が継続されますが、インフルエンザワクチンの接種により、インフルエンザの発症が防げるのであれば、論理的にはインフルエンザ脳症の発症リスクは回避あるいは軽減されるとも考えられます。また、インフルエンザ発病から中枢神経系障害をおこすまでの期間が、およそ1.4日程度と短時間であることから、ワクチン接種が発症者の33%において症状の軽減に寄与するならば、予防として有効であろうとの意見もあります。
インフルエンザ脳症はインフルエンザに罹患しなければ発症しないので、インフルエンザ脳症の発生リスク高い1歳前〜5歳だけでなく、周囲のヒト(家族、保育園職員など)にワクチンを接種し、これらの幼児のインフルエンザウイルスへの曝露機会を減らすことが勧められます。
●予防接種法関係
Q.35:予防接種法でインフルエンザワクチンの接種はどのように位置づけられていますか?
平成13年から予防接種法によりインフルエンザの予防接種は、定期接種の「二類疾病」となりました。「一類疾病」とは、発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病です。「二類疾病」は、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の防止に資することを目的として、予防接種法に定めるところにより予防接種を行う疾病で、接種はそれぞれの意思に基づいて行われます。これは、海外および国内の研究の成果から、高齢者へのインフルエンザワクチンの接種が重症化や死亡の防止に効果的であることが証明されたことに基づいています(Q19を参照)。
これによりインフルエンザは全額自己負担の任意接種から、
により、全体として費用負担が減じることになりました(一部負担額は市区町村によって異なります)。
しかし、定期接種としての費用負担の軽減や、予防接種による健康被害の救済・保障が法的に認められた対象となるのは、65歳以上の方(接種日が、65歳の誕生日の前日に当たる方からが対象となります)及び、60歳から64歳までの方で、心臓やじん臓、呼吸器等に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の重い病気のある方や、ヒト免疫不全ウイルスへの感染によって免疫の機能が日常生活がほとんど不可能な程度低下している方などで、年1回の定期予防接種として受けた接種についてだけです。これ以外の方はこれまで通りの自己負担での任意接種の形になります。
また、定期予防接種により障害などの健康被害が生じたと認定された場合には、予防接種法に定められた医療費や各種手当などの給付を受けられるようになります(Q31)。具体的には、健康被害の内容、程度に応じて、厚生労働省の疾病障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会)での審議を経たあと、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。支給額は予防接種法施行令の規定に準じた額となります。
詳しくは以下のアドレスの厚生労働省ホームページ政令掲載部分をご覧下さい。
予防接種法施行令:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1b.html
予防接種法施行規則:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1c.html
予防接種法に関する情報ページ:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1.html
Q.36:定期予防接種の場合にワクチン接種の費用は変わりますか?
定期予防接種の費用については、予防接種は疾病から被接種者自身を予防するという個人受益の要素があることから、市区町村の判断により経済的理由により負担できない方を除き、実費を徴収することができることとされています。
具体的な額、実費を徴収されない方の詳細については、市区町村によって異なりますので、Q29を参考に、居住地の市区町村にお問い合わせください。
予防接種法に基づく定期接種の対象外の方(任意接種)は、これまでどおり、接種費用を全額自己負担していただくことになります。金額は地域、医療機関で異なりますので、接種予定の医療機関へ直接お問い合わせください(Q25参照)。
Q.37:住民票と異なるところに長期滞在している場合に、現在地でのワクチン接種ができますか?
任意接種の場合はいずれの市町村でも接種可能ですが、予防接種法による定期接種は、市区町村が実施するため、住民票のある市区町村が指定する医療機関などで受けていただくのが原則です。しかし、市区町村によっては住民票と異なるところに滞在している方に便宜を図っていることもありますので、詳しくはお住まいの市区町村にお問い合わせください。詳しくは住民登録をしている市区町村にお問い合わせください。
Q.38:痴呆など意思確認が難しい方へのワクチン接種はできますか?
対象者の意思確認が難しい場合は、家族又はかかりつけ医の協力により対象者本人の意思確認をすることとし、接種の意思があるものと確認できた場合に予防接種法に基づいた定期接種を行うことができます。対象者の意思確認が最終的にできない場合には、予防接種法に基づくインフルエンザワクチンの接種を行うことはできません。個別の事例に関しては、各市区町村、医師会などへご相談ください。
インフルエンザ予防接種実施要領:
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1d.html
厚生労働省行政版Q&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1g.html
予防接種法の一部を改正する法律等の施行について(H13.11.7)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1h.html
●インフルエンザと話題の関連疾患
Q.39:今年のインフルエンザシーズンにSARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザが起こったら、どうすればよいのですか?
SARSについては、2003/2004シーズンにみられた発生報告は実験室内での感染例でした。また、鳥インフルエンザについては、国内での家禽類の間での発生はみられたものの、平成16年10月時点まで国内でのヒトの感染の報告はありません。今冬起こるのかどうかについては、世界中のだれにもわかりません。サーベイランスが引き続き必要です。
SARSはSARSコロナウイルス、インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、まったく違う病原体によるものですが、初発症状は、突然の高熱、筋肉痛、全身倦怠感など極めてよく似ており、症状からは区別はつきません。両者を鑑別するには、医療機関において各種検査を行いその結果などから総合的に判断することが必要です。また、鳥インフルエンザは例年ヒトの間で流行しているインフルエンザウイルスとは異なりますが、同じA型のインフルエンザウイルスによる感染ですので、ヒトに感染した際の症状は酷似しており、一層インフルエンザとの区別は難しくなります。地方衛生研究所や国立感染症研究所で各種検査を実施し、亜型あるいは遺伝子配列などの詳細な解析を行って初めて確定診断ができます。
インフルエンザ様の症状が長引いたり、症状が強いか激しい場合で、かつ、実際にSARS患者と濃厚な接触をしたか、介護したか、同居したか、あるいはその体液に接触したか、SARSコロナウイルスや、それを含んでいる可能性のある検体を取り扱って実験をしているか、具合の悪い鳥との密接な接触などの感染の可能性が疑われる情報がある場合には、保健所などへ相談することが必要になります。
詳しくは、SARSのページのQ&A、「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」、高病原性鳥インフルエンザが疑われる患者に対する医療機関での対応、鳥インフルエンザのQ&Aなどを参照してください。
SARS(重症急性呼吸器症候群):http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/index.html
高病原性鳥インフルエンザ:http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html
Q.40:インフルエンザのパンデミックが起こったときの対策はあるのですか?
Q17にあるように、新型のインフルエンザが出現する可能性は以前にも増して大きくなりつつあります。新型インフルエンザに対しては誰も免疫を持っていないために、世界中で大規模な流行、つまりパンデミックが起こる可能性は非常に高いと言えます。
新型インフルエンザが出現した場合に、パンデミックを食い止めるには、早期に検知して、直ちにワクチンを開発し、あらゆる手段を講じて、その間の感染拡大を最小限にとどめる以外に方法はありません。事前対策としての、患者、ウイルス両面からのインフルエンザサーベイランスの強化に始まり、ワクチン生産体制の整備、生産実施計画の準備、緊急時の医療供給体制の整備、予防投与の考え方の整理、そして、実際の行動計画の策定などをあらかじめ準備、演習しておく必要があります。また、海外で先に発生することも考えられますので、国際情報の収集も重要になります。
本邦では、これらを網羅した新型インフルエンザ対策検討会が、厚生労働省のもと開かれ、平成16年8月に報告書が取りまとめられています。詳細は以下の報告書をご参考ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0903-1.html
9 インフルエンザ予防接種慎重に
平成11年11月29日付け朝日新聞「論壇」より抜粋
投稿=毛利子来:小児科医、ワクチントーク全国代表
インフルエンザのシーズンが迫った。昨冬に千人を超す死者が出て大きく報道されたため、今年は早々と身構える気配が濃い。ぼくの医院にも「子どもに予防接種をしてほしい」といってくる親が増えた。聞けば、あちこちの病院で予防接種をやっているという。
厚生省では、老人を主として全国民を対象に、大々的に予防接種を推進する施策に乗り出した。
だが、こうした動向には、強い懸念を抱かざるをえない。というのは、インフルエンザ予防接種には、いくつも大きな疑問があるからだ。
第一は、子どもへの効果。予防接種がインフルエンザの流行を阻止できないこと、個々の子どもの罹患率もほとんど減らせないことは、前橋市医師会の調査で明らかになっている。この調査は1980年から6年間に及び、毎年7万人前後を対象にした大規模な優れたものだ。その後これを覆す調査は国際的にも現れていない。
だからこそ、当の厚生省も子どもへの接種は今後の研究課題としているのが実情なのだ。
なのに、あえて接種をすれば、副作用の害の方が心配になる。なにしろ、この予防接種が原因で死亡したり後遺症を残した人は、認定されたものだけで97年までに187人にのぼる。安全度が高いとされるタイプのワクチンになってからも、それによる脳症が散発しているのだ。
第二は、老人への効果。これについては、国内に、判断の根拠にできる研究は一つしかない。それも対象者が無作為で選ばれた人ではないという調査上の問題をはらむ。外国の文献は数多く証拠に出されるが、日本のワクチンが成分において外国と異なる点と、老人に対する介護や看護のレベルが内外で異なる点で、説得力を欠くといわざるをえない。
さらに、数多い外国の文献のうち、研究方法がしっかりしたものは、ただ一つオランダの文献が見られるだけである。しかも、その研究では、どの程度の症状があればインフルエンザと診断するかによって、効果に有意の差があったりなかったりしている。死者を考察対象から除外していることとともに、判断に苦しむところだ。
そこで、死亡を防ぐ効果を研究した文献に当たると、予防接種をした者としなかった者との比較の仕方に難点のあるものがほとんど。たとえば、接種しなかったのは、重度の病気を抱えているため拒否した人であったりする。これでは、死亡を防ぐ効果の証明にはなりにくい。
さらに最近は、老人施設で積極的に接種を行っても有効性が疑わしいとする論文や、施設のスタッフへの接種を勧める論文さえ現れている。
第三の疑問は、行政上の手続きにまつわる。厚生省は予防接種問題検討小委員会を設け、この一年ほど、インフルエンザを主に検討した。しかし、このワクチンに対する確たる評価は得られなかった。にもかかわらず、小委員会の報告書には「一定の有効性は証明されている」と書かれてしまったのだ。「一定の」とは、広辞苑によれば「十分ではないが、それなりの」という意味である。こんな漠然とした報告を元に行政を進めてもよいものであろうか。
しかも、インフルエンザについては、94年の予防接種法改正で、子どもに対する接種の対象疾患から外した経緯がある。とすれば、その時を上回る検討がなされるべきなのに、なされてはいない。
今度は老人が対象だから話は別という見解も出されている。だが、それなら初めての施策なので、より慎重な準備が求められるはず。特に、老人は判断力が衰えている人や重い病気を抱えている人が多い。したがって、接種を避けなければならない人かどうか確認しなければならず、同意の取り方、問診、診察など接種に当たっての技術的な基準をしっかりさせておかなければ危険だ。
最後に、以上の諸点から、厚生省には、子どもへの接種は推奨しないこと、外国の資料のみに依拠して「有効」と断言しないこと、副作用も考慮して接種を慎重にすることを求めたい。また、マスコミには、パニックをあおる昨冬のような報道は控え、予防接種の評価を公平にすることを望みたい。
10 インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤の使用について
国立感染症研究所ホームページ「感染症情報センター」の「トピックス」中、「インフルエンザ」より抜粋
1 概要
平成11年度厚生科学研究「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」(班長:森島恒雄 名古屋大学医学部教授)より以下の報告を受けた。
平成11年1月から3月までにインフルエンザの臨床経過中に脳炎・脳症を発症した事例に対してアンケート調査を実施し、解析が行えた181例(うち小児170例)について解熱剤の使用の関連性について検討を行った。
その結果、ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸が使用された症例では使用していない症例に比較して死亡率が高かった(表1)。
しかしながら、インフルエンザ脳炎・脳症においては発熱が高くなるほど死亡率が高くなることが知られており、ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸はこうした重症例の解熱に使用される傾向にあることを踏まえ、さらに統計的な解析を行ったところ、これらの解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡について、わずかではあるが有意な結果を得た(表2)。
本研究は、これらの解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡との関連の可能性を示唆するものではあるが、症例数が少なく、有意差もわずかであることから、今後更なる研究が必要である。
2 対応
(1)研究班による報告は、ジクロフェナクナトリウム及びメフェナム酸とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡との関連の可能性を示唆するものではあるが、症例数が少ない等、科学的な判断を行う上で十分な情報とはいえない。さらに、インフルエンザ脳炎・脳症では解熱剤を使用しない例で約4人に1人が死亡しており、42度以上の発熱例ではほぼ全例が死亡の転帰をとると言われているなど、解熱剤の影響だけが脳炎・脳症の経過にとって重大な因子ではない。
(2)しかし、本報告の内容を広く医療関係者に情報提供することが適当と考えられることから、ジクロフェナクナトリウム及びメフェナム酸を製造・販売する企業に対して、医療機関等へ本報告の内容を周知するよう指示した。
表1
| 全症例数 | 死亡者数 | 死亡率 | |
| 解熱剤使用せず | 63 | 16 | 25.4 |
| アセトアミノフェン | 78 | 23 | 29.5 |
| ジクロフェナクナトリウム | 25 | 13 | 52.0 |
| メフェナム酸 | 9 | 6 | 66.7 |
| その他の解熱剤 | 22 | 5 | 22.7 |
(注)複数の薬剤が投与されている症例があるために、症例数の合計は181にならない。
表2
| オッズ比 | 95%信頼区間 | |
| アセトアミノフェン | 1.03 | 0.48-2.24 |
| ジクロフェナクナトリウム | 3.05 | 1.09-9.21(P=0.048) |
| メフェナム酸 | 4.6 | 1.03-20.49(P=0.045) |
| その他の解熱剤 | 0.71 | 0.21-2.48 |
(注)発熱時の最高体温、年齢、発熱から神経症状発現までの日数を加味して多変量解析により解析した。

(インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班の補足)
厚生省医薬安全局安全対策課より、インフルエンザ脳炎・脳症における解熱剤使用についての私共の研究班報告(インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班)の結果が発表されるとうかがいました。
インフルエンザが今年も流行し始めた現在、医療の現場で混乱が起こることを私共は心配しております。
発表したデータは客観的資料に基づきだされた結果ですが、症例数が解析には満足すべき数に達していない薬剤もあり、今後のさらなる調査が必要と考えています。
(1) インフルエンザ脳炎・脳症において発熱が高くなる程予後は悪くなります。
(42度以上では100%死亡、41度以上では同42%)
(2) 一般に今回問題となったジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸はこうした熱の下がりにくい子どもたちに使われる傾向にあります。
(3) したがって表1の解釈にはこの点に配慮する必要があります。
(4) 発熱時の最高体温を含めた多変量解析がおこなわれたのは、こうした様々な因子を考えにいれて評価する必要があると判断したためです。
(5) 多変量解析の結果は表2に示しましたように、インフルエンザ脳炎・脳症の死亡と解熱剤のあるものに有意な差がでてまいりましたので、厚生省にご報告した次第ですが、その有意差はわずかなものでした。
(6) また、重要な点は、解熱剤を使用しない症例でも25.4%死亡し、また比較的安全と思われるアセトアミノフェンでも29.5%死亡が認められており、解熱剤だけが原因でこの病気が起きるわけではありません。
今後さらなる原因の究明と治療・予防方法の確立が急務と考えます。以上を研究班として補足させていただきます。
インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班
森島恒雄 (班長、名古屋大学医学部保健学科)
富樫武弘 (市立札幌病院小児科)
横田俊平 (横浜市立大学小児科)
奥野良信 (大阪府立公衆衛生研究所)
宮崎千明 (福岡市立心身障害者福祉センター)
田代眞人 (国立感染研 ウイルス製剤部)
岡部信彦(国立感染研 感染症情報センター)
(インフルエンザ関連脳症についての見解)
日本小児感染症学会運営委員会(小児感染免疫 1999,Vol.11,No.4, 429-431)
福島市で開催された第31回小児感染症学会総会(会長 鈴木 仁 教授、福島県立医大)において、インフルエンザ関係の演題が30題に上り、その内、インフルエンザ関連脳症の演題は15題を占めた。
脳症の問題は、我が国の小児科臨床上の大きな問題となり、さらに社会問題となりつつある。
本学会においても、脳症のいくつかの問題点について、現状での見解をとりまとめ、会員と全国の小児科医に情報を伝え、診断、治療などに混乱を招かないようにする必要がある。
(1)発生状況
厚生省の研究班「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究」の報告では、平成11年1月1日から3月31日までに、小児で、217例(そのうちインフルエンザの確定診断がついている例が129例)の脳症と考えられる症例があり、5歳までに全体の82.5%が含まれ、中央値は3歳であった。
217例のうち、完全に回復したものが86例、後遺症の残ったものが56例、現在経過観察中が17例、死亡したものが58例であった。
インフルエンザの発症から脳症の症状を呈するまでの期間は、平均1.4日であった。インフルエンザワクチンの接種例はなかった。
(2)原因
インフルエンザ関連脳症のほとんどの症例が、A香港型インフルエンザウイルス感染に伴って発症している。
しかし、pathogenesisは現在のところ不明で、いくつかの説が提案されている。
1)インフルエンザウイルスが、ウイルス血症を介して、中枢神経系に侵入して、脳症を起こす。
2)インフルエンザウイルスが、ウイルス血症を介して、中枢神経の血管内皮細胞に感染しサイトカインが産生され、脳血管を障害し脳症となる。
3)インフルエンザの全身症状(高熱、頭痛、四肢痛、倦怠感)は、呼吸器細胞や単核球、リンパ球から産生されるサイトカインによって生じるといわれる。インフルエンザウイルス感染により、サイトカインが異常に強く産生され脳症を起こす。
4)欧米では、日本で報告されているような、インフルエンザ脳症の多発はみられないので、インフルエンザ感染に加えて、HLA、人種、薬剤等の要因も考えられている。
(3)解熱剤の使用について
脳症の多発が問題になるにつれて、欧米でのライ症候群とアスピリンの関係から、我が国でのインフルエンザ関連脳症についても、解熱剤が関与しているのではないかという懸念が広がっている。
一部では、インフルエンザには、解熱剤を使用するべきでないという意見もでている。
しかし、幼児のインフルエンザでは、高熱が持続するために、非ステロイド系抗炎症剤を使用せざるを得ない症例も多い。
本学会では、解熱剤を使用していないにもかかわらず、脳症を発症した例も報告された。
欧米でも、アセトアミノフェンと非ステロイド系抗炎症剤であるイブプロフェンの解熱剤は小児のインフルエンザ患者に日常的に使用されている。
少なくとも、現在、我が国の小児科で中心的に使用されている、アセトアミノフェンの使用は、脳症の発症に関連はないとする意見が多数を占めた。
(4)診断
臨床経過からは、脳症の発症の可能性を予測することは出来ない。
脳症を疑う重要な臨床症状として意識障害があるが、発症患者に低年齢の幼児が多いこともあり、意識障害の出現を早期に見極めることは困難である。
また、インフルエンザ脳症では、痙攣を伴う例が多数を占め、低年齢層では、ほとんどの症例にみられるが、熱性痙攣の好発する年齢でもあり、痙攣をもって脳症を予測することは出来ない。
ただし、痙攣が長引いたり、意識障害が確認できる場合は脳症を疑う必要がある。
脳圧亢進症状を早期に発見することが重要で、髄膜刺激症状、精神症状(興奮など)を注意深く観察する。
画像診断では初期には変化がみられないことも多い。
ウイルス診断としては、A型インフルエンザの迅速診断キットが発売され保険適応も認められた。これを利用すれば、ウイルス感染の有無は、約10分で診断可能である。
鼻汁や気管内吸引物を検体とすれば、ウイルス分離と比較して、90%以上の感度が期待できる。
(5)治療
インフルエンザ脳症に対する確立した治療法はない。
脳浮腫に対する脳保護療法、抗脳浮腫療法が主体である。
アマンタジンがA型インフルエンザに有効であることから、脳症の治療にも試みられているが、現時点では、有効性について結論は出ていない。
アマンタジンは、A型インフルエンザ用の抗ウイルス剤であり、治療に用いると、発症後48時間以内ならば、軽症化が期待できる。
本学会においても、小児のインフルエンザに使用して、有意な解熱効果が認められたことが報告された。
脳症は、ほとんどの症例が、A香港型インフルエンザ感染症に伴って発症しているので、多くの施設で、アマンタジンによる脳症の治療が試みられている。
欧米では、脳症の多発はないことから、脳症に対するアマンタジンの用法、用量等に定説はない。本学会での報告では、5-8mg/kg/日、分2で、1週間前後の投与がなされている。
意識障害のあるときは経胃管投与、意識回復後は、内服させている。嘔吐や胃出血のあるときは、アマンタジンの注腸投与も試みられ、経口と同程度、血中濃度の上昇することが証明された。
アマンタジンの効果は、発病早期に、肝機能異常のない時期に投与が開始された場合は、有効例が多い印象がある。
インフルエンザ発症後、脳症を疑って、どの時点で、アマンタジンの投与を開始するかには、一致した意見はない。
早期に使用すれば、作用機序から、有効性は高いと考えられるが、迅速診断でA型インフルエンザが証明され、特に痙攣が認められる例には、アマンタジンを投与することを奨める意見もある。
しかし、耐性ウイルスが出やすいことや、副作用の点から、アマンタジンの使用に慎重な意見もある。
1歳以下の乳児での使用には反対意見が多い。
(6)インフルエンザワクチン接種について
インフルエンザ予防には、乳幼児であっても、ワクチン接種は、安全で有効な方法である。
ただし、その有効性は、学童に比べると低く、特に、B型インフルエンザでの効果は低い。
本邦の報告では、A香港型インフルエンザには、大きな抗原変異があった状況下でも、2-6歳児で、50%以上の感染防止効果が報告されている。
脳症の予防に、インフルエンザワクチンが有効かどうかはデータはないが、ほとんどの症例がA香港型インフルエンザに伴っており、ウイルス血症が発症に関与しているとすれば、有効と考えるのが妥当である。
またインフルエンザ発病から中枢神経系に障害を起こすまで、1.4日と短時間であることから、インフルエンザ関連脳症では、治療は困難であり、むしろ予防としてのワクチン接種が重要という意見もある。
11 インフルエンザ脳症の後遺症児に対するインフルエンザワクチン接種について
当ホームページ開設者が国立感染症研究所感染症情報センターに問い合わせたところ次のような回答を得ました。
(照会内容)
インフルエンザワクチンに関して次の2点について、ご質問させていただきます。
(回答内容)
12 インフルエンザに関する特定感染症予防指針(H11.12.21告示)
厚生省ホームページ「トピックス」中、「インフルエンザ様疾患の流行状況について」より抜粋
インフルエンザは、人類が数千年前から経験してきた感染症であり、人類にとって最も身近な感染症の一つである。また、風邪症候群を構成する感染症の一つであることから、特に、我が国において、普通の風邪と混同されることが多い。しかしながら、罹患した場合の症状の重篤性や肺炎等の合併症の問題を考えた場合には、普通の風邪とは全く異なる転帰を迎えることがあるといった特性に加えて、A型インフルエンザについては、汎流行が数十年に一度発生し、我が国を含めた世界各国で甚大な健康被害と社会活動への影響を引き起こすという特徴を有している。このようなインフルエンザが与える個人及び社会全体への影響にかんがみると、行政関係者や医療関係者はもちろんのこと、国民個人個人においてもその予防に取り組んでいくことが極めて重要である。
また、平成六年に、予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)の対象からインフルエンザが除外されたことにより、国民の間でインフルエンザの危険性とインフルエンザワクチンの有効性が軽視されることとなり、インフルエンザワクチンの必要性を含めたインフルエンザの脅威と予防の重要性が、必ずしも国民の間で十分に認識されなくなった。このような状況の下、近年では、施設等におけるインフルエンザの集団感染、インフルエンザによる高齢者の死亡、乳幼児のインフルエンザの罹患中に発生する脳炎や脳症の問題等も指摘されている。
本指針は、このような認識の下に、我が国最大の感染症であるインフルエンザについて、国、地方公共団体、医療関係者等が連携して取り組んでいくべき対策について、発生の予防及びまん延の防止、良質かつ適切な医療の提供、正しい知識の普及等の観点から新たな取組の方向性を示すことを目的とする。また、本指針に基づいて、具体的かつ技術的なインフルエンザ対策要綱を作成し、それに基づいた総合対策を進めていくこととする。
なお、本指針については、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更していくものである。
第一
原因の究明
一基本的考え方
冬季に爆発的に患者が発生し、患者発生数が頂点を迎えた後は急速に終息に向かうといったインフルエンザの流行の特性を考えた場合、適切な予防の実施及び良質かつ適切な医療の提供を支援していくためには、インフルエンザの発生動向の調査は、極めて重要である。
国及び都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下同じ。)がインフルエンザに関する情報の収集及び分析を行い、国民や医師等の医療関係者に対して情報を公開していくことが、インフルエンザ対策を進めていく上で、最も基本的な事項である。
二
発生動向の調査の強化
国及び都道府県等は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「法」という。)に基づくインフルエンザの発生動向の調査を強化すべきである。特に、感染症の情報収集における迅速性と正確性という本来相反する二つの側面の均衡に配慮しつつ、感染力が極めて強く、かつ、極めて短期間の間に流行が拡大するというインフルエンザの特性に応じた効果的かつ効率的な情報収集体制を整備すべきである。また、感染症の発生動向の調査に当たっては、患者情報のみならず病原体情報も含めて、総合的に行うことが重要である。
三
発生動向の調査の結果の公開及び提供の強化
国及び都道府県等がインフルエンザの発生動向の調査の結果の公開及び提供を行うに当たり、様々な立場の者が情報の受け手として想定される。したがって、医療関係者等の感染症の専門家のみならず、感染症についての専門的な知識を有していない国民が、必要な情報を短時間で、正確かつ理解しやすい形で入手できるよう調査の結果の公開及び提供を強化していくことが重要である。
四
国際的な発生動向の把握
インフルエンザは、我が国のみならず世界中で発生する地球規模の感染症であることから、我が国のインフルエンザ対策をより一層的確なものとするため、我が国に隣接した東アジアを中心とした国際的なインフルエンザの発生及び流行の状況を把握すべきである。
第二
発生の予防及びまん延の防止
一 基本的考え方
インフルエンザの発生の予防及びまん延の防止においては、国民個人個人が自ら予防に取り組むことが基本であり、個人の予防の積み重ねにより、社会全体のまん延の防止に結び付けることが重要であり、国及び都道府県等は、医師会等の関係団体とともに、国民個人個人が自ら予防に取り組むことを積極的に支援していくことが重要である。
二
予防接種の推進
インフルエンザについては、予防接種が最も基本となる予防方法であるが、個人の発病や重症化の防止の観点からも、予防接種を推進していくべきである。このため、国及び都道府県等は、国民個人個人が自ら予防接種を受けるか否か判断できるように、インフルエンザワクチンの効果、副反応等の正しい知識の普及に努め、接種を希望する者が接種を受けやすく、かつ、接種を行う医師が安心して接種できる体制を構築していくことが重要である。特に、高齢者等の高危険群に属する者に対しては、自己判断を原則としつつ、インフルエンザワクチンの効果、副反応等について積極的に情報提供を行い、予防接種を推進することが重要である。
三
予防接種以外の一般的な予防方法の普及
国及び都道府県等は、予防接種以外の一般的な予防方法について、科学的根拠に基づき、かつ、インフルエンザ以外の普通の風邪の予防も併せて想定した上で、国民に対する周知徹底を図っていくことが重要である。
四
施設内感染の防止
インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、集団生活の場に侵入することにより、大規模な集団感染を起こすことがある。特に、高齢者等の高危険群に属する者が多く入所している施設においては、まず、施設内にインフルエンザウイルスが持ち込まれないようにすることが重要である。
国は、インフルエンザウイルスの施設への侵入の阻止と侵入した場合のまん延の防止を目的とした標準的な施設内感染防止の手引きを策定し、都道府県等とともに各施設に普及していくべきである。その上で、各施設においては、施設内感染対策の委員会等を設置し、当該手引きを参考に、各施設の特性に応じた独自の施設内感染対策の指針を事前に策定しておくべきである。
五
一般向け情報提供体制及び相談機能の強化
国は、予防接種の意義、有効性、副反応等やインフルエンザの一般的な予防方法、流行状況等に関する国民の疑問に的確に答えていくため、関係団体と連携を図り、情報提供体制及び相談機能を強化していくべきである。
第三
医療の提供
一 基本的考え方
インフルエンザは、健康な人が罹患した場合には、重症化することは少ないが、高齢者を中心として慢性疾患を有する者等が罹患した場合には、合併症を併発することにより重症化する場合が多く、また、乳幼児が罹患した場合には、脳炎や脳症を引き起こすことも問題として指摘されている。しかしながら、その症状は、普通の風邪と共通する点が多いことから、その鑑別診断は、容易ではない。したがって、インフルエンザ様の症状を呈する患者の診療に当たっては、的確な鑑別診断が重要であり、かつ、高齢者等の高危険群に属する者に対しては、呼吸器症状の治療のみならず、十分な全身の管理が求められる。したがって、国及び都道府県等は、医療関係者を支援していくため、医療機関向け学術情報の発信強化等を図ることが重要である。
二
医療機関向け学術情報の発信強化
国及び都道府県等は、日進月歩で進んでいるインフルエンザに関する診断方法、治療方法等の研究成果について、医療機関に迅速に提供していくため、医師会等の関係団体との連携を図りながら、各種学術情報の発信強化を行うことが重要である。また、国は、関係団体と連携を図り、医療関係者からの相談にも応じられるよう相談機能の強化を図るべきである。
三
流行が拡大した場合の対応の強化
インフルエンザの流行に伴い、患者が大量に発生した場合においても、良質かつ適切な医療を提供するためには、国、都道府県等、医師会等の関係団体等の相互の連携が重要であり、流行していない時期から継続的に連携を図ることが重要である。国及び都道府県等は、実際にインフルエンザが大流行して多数の患者が発生した場合を想定して、消防機関と医療機関との一層の連携強化を図るとともに、必要な病床や機材の確保、診療に必要な医薬品の確保、医師、看護婦等の医療従事者の確保等の緊急時の医療提供体制をあらかじめ検討しておくことが重要である。
四
施設における発生事例への対応の強化
高齢者等の高危険群に属する者が多く入所している施設において、インフルエンザの流行が発生した場合には、都道府県等は、当該施設等の協力を得ながら積極的疫学調査(法第十五条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査をいう。以下同じ。)を実施し、感染拡大の経路及び感染拡大に寄与した因子の特定等を行うことにより、施設内感染の再発防止に役立てることが望ましい。また、国及び都道府県等は、積極的疫学調査のほか、施設からの求めに応じて適切な支援及び助言を行うことが求められる。
五
インフルエンザワクチン等の供給
国は、インフルエンザワクチン並びに必要な診断薬及び治療薬について、円滑な生産及び流通が図られるよう努めることが重要である。このため、特に、インフルエンザワクチンについて、毎年度の需要を検討するとともに、インフルエンザワクチンの製造業者等と連携しつつ、必要量が円滑に供給できるように努めることが重要である。また、予期せぬ需要の増大が生じた場合には、高危険群に属する者への円滑な接種に配慮しつつ、供給面についての対策を検討することが重要である。
第四
研究開発の推進
一 基本的考え方
インフルエンザの特性に応じた発生の予防及びまん延の防止や良質かつ適切な医療の提供を推進していくためには、研究結果が感染の拡大抑制、また、良質かつ適切な医療の提供につながるような研究を行っていくべきである。特に、インフルエンザは、いまだ解明されていない点が多く、基礎、疫学、臨床等の各分野における知見の集積は不可欠であるが、これらの自然科学的側面のみならず、社会的側面や政策的側面にも配慮した研究を行っていくことが重要である。このため、国及び都道府県等は、このような観点から、インフルエンザ研究の基盤整備を推進することが重要である。
二
インフルエンザワクチン等の研究開発
国は、より有効かつ安全なインフルエンザワクチン及び治療薬の開発に向けた研究、より迅速かつ確実な診断方法及び検査方法の開発に向けた研究、現行のインフルエンザワクチン及び治療薬等の使用に関する研究等を強化するとともに、戦略的な研究目標を設定することが重要である。
三
疫学研究の推進
国は、インフルエンザの発生及びまん延の状況の早期把握、流行予測の手法に関する研究を推進するとともに、インフルエンザに罹患した場合における脳炎や脳症の発症の可能性があるためにインフルエンザの高危険群に属する可能性がある乳幼児に関する疫学研究等を推進することが重要である。
四
研究機関の連携体制の整備
国及び都道府県等は、研究の充実を図るため、国立感染症研究所、地方衛生研究所、大学、国立病院、国立療養所等から成る研究機関の連携体制を整備するとともに、研究成果が相互に活用できる体制を整備することが重要である。
五
研究評価の充実
国は、研究の充実を図るため、研究の成果を的確に評価するとともに、国民や医療関係者等に対する公開及び提供を積極的に行うことが重要である。
第五 国際的な連携(略)
第六 新型インフルエンザウイルスの感染拡大阻止へ向けた危機管理体制の強化(略)
第七
関係機関との連携の強化等
一 基本的考え方
関係するすべての機関が、役割を分担し、協力しつつ、それぞれの立場からの取組を推進することが必要である。このため、厚生省、外務省、文部省、農林水産省、労働省、科学技術庁等における普及啓発の推進、研究成果の情報交換、官民連携による施策の推進を図るほか、国及び都道府県等と医師会等の関係団体との連携を強化することによって、インフルエンザの発生動向の調査体制の充実、報道機関等を通じた積極的な広報活動の推進等を図ることが重要である。
二
保健所及び地方衛生研究所の機能強化
地域における感染症対策の中核としての保健所の役割を強化するとともに、感染予防対策を推進する上での所管地域の特性等の留意点を分析できるよう保健所の機能強化を図ることが重要である。また、都道府県等における病原体検査の中心的な役割を果たす地方衛生研究所の機能強化を図ることが重要である。
三
専門家会合の開催
予防接種に代表される発生の予防及びまん延の防止の方法は、科学的根拠に基づいたものであることが不可欠である。国は、インフルエンザの専門家から成る委員会を設置することにより、科学的知見を定期的に蓄積し、その結果をインフルエンザ対策に反映することが重要である。
四
本指針の進捗状況の評価及び展開
本指針を有効に機能させるためには、関係者が協力して本指針に掲げた施策に取り組むことが極めて重要である。このため、国は、流行期におけるインフルエンザの発生状況及び本指針に基づく取組の進捗状況を取りまとめ、次の流行期に備えておくべきである。