2001年度改訂版
久留米大学医学部ウイルス学講座ホームページ中、「インフルエンザ脳炎研究会」のページから抜粋
インフルエンザ脳炎・脳症は、病状の急速な進行と致命率の高さが特徴的な疾患です。現在まで本症に有効な治療法は、未だ確立していないのが現状です。
インフルエンザ脳炎・脳症の治療方法についての本試案は、この疾患の重さに鑑み、それぞれの治療法を選択した際に使用薬用量、薬剤の投与方法、必要機器とその準備などを具体的に示し、ベットサイドにおける有用性を第一に考えて作成したものです。
本試案に掲げたすべての治療方法は、インフルエンザ脳炎・脳症の治療としてその有効性を厳密な方法により検討し確認されたものではなく、諸施設において、何例か経験されたり、現在考えられている本症の病態から考えて、他の疾患の経験から有効性が類推されている治療法です。また、本来の薬剤の適応から外れていたり、用法が変更されたり、用量を大きく上回る治療法も含まれます。
従って、インフルエンザ脳炎・脳症に罹患した患児に対し、ここに掲げた治療方法が実施されなければならない理由はなく、実際の治療はあくまでも主治医の自由な選択に任されていることは言うまでもありません。また、厚生労働省および厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班はこの治療法の結果に関与いたしませんのでご了承下さい。
以上のような状況にありますので、本試案中のいずれかの治療法を実施される場合には、まず各病院の倫理委員会にお諮りいただき、御家族に充分な説明を行い、同意書を準備し御家族に記載していただく必要があります。同時に厚生労働省および研究班が関与していない旨、ご家族にお知らせ下さい。
本試案に則って治療を行われる場合には、あらかじめ研究会に連絡・登録を戴き、シーズン終了後に結果を集計致したいと思いますので、ぜひ御協力を宜しくお願い致します。
この試案を第一歩として、速やかに、安全かつ有効性の高い治療法が確立され、「治療指針」が作成されることが私ども研究会の願いです。
この2001年度改訂版は、昨年度(2000年度)ご報告いただいた結果をまとめ、その後の治療法などを検討し、一部改訂したものです。
■インフルエンザ脳炎・脳症研究会 会員
研究会員 ◎:研究会代表 ○:治療検討部門責任者
◎森島 恒雄 名古屋大学医学部保健学科 ○横田 俊平 横浜市立大学医学部小児科 富樫 武弘 市立札幌病院小児科 水口 雅 自治医科大学小児科 田代 眞人 国立感染症研究所感染症ウイルス製剤部 岡部 信彦 国立感染症研究所感染症情報センター 奥野 良信 大阪府立公衆衛生研究所ウイルス部 宮崎 千明 福岡市立あゆみ学園 市山 高志 山口大学医学部小児科 岩崎 琢也 国立感染症研究所感染病理部 河島 尚志 東京医科大学小児科 木村 宏 名古屋大学医学部小児科 奥村 彰久 名古屋大学医学部小児科 栗原 まな 神奈川県総合リハビリテーションセンタ−小児科 黒木 春郎 千葉大学医学部小児科 塩見 正司 大阪市立総合医療センター 豊田 哲也 久留米大学医学部ウイルス学 布井 博幸 熊本大学医学部小児科 細矢 光亮 福島県立医科大学小児科 渡邊 あゆみ 名古屋大学医学部保健学科 大槻 則行 小田原市立病院小児科 鍵本 聖一 埼玉県立小児医療センター 須磨崎 亮 筑波大学小児科
■「序」インフルエンザ脳炎・脳症の特殊治療法(試案)
【はじめに】
近年、インフルエンザの発症に伴い、脳炎・脳症を示す報告が続き、1998/99シーズンには約200例、1999/2000シーズンには約120例が報告されました。多くは5歳以下の乳幼児で、そのおよそ1/3は死の転帰をとり、重大な後遺症を残す例もまれではないことが判明しています。
本症は、急な発熱後、当日〜翌日に突然のけいれんに始まり、引き続く意識障害を主訴に救急外来へ搬送される例がほとんどで、来院時には意識障害が継続しています。血液検査所見は発症直後にはほぼ正常に近く、意識障害の持続に伴いAST/LDHの急速な上昇、血小板数の低下、血清クレアチニンやFDP-Eの上昇などを認め、DICと著しい細胞・臓器障害とが急速に進行します。さらに腎不全、肝不全など多臓器障害に至り死の転帰をとるものと思われます。ただし血中アンモニア上昇と血糖低下を認めることは少なく、髄液検査でも細胞増多、蛋白上昇、糖減少などの所見もなく、「脳炎」と呼べるものは少数例に過ぎません。髄液検査にてもウイルスが分離される例はむしろ例外的で、インフルエンザ・ウイルスの中枢神経に対する直接の侵襲は否定的です。現在まで得られている知見では、高サイトカイン血症及び血管(血管内皮)の機能的または器質的な障害が本疾患の本態と考えられています。
一方、本症に対する有効かつ標準的な治療法はいまだ確立されておらず、模索状態というのが現状です。今回、試案としてお示ししますいくつかの治療方法は、その有効性を厳密な検討により確認されたものではなく、また具体的な適応基準すら確定的なものではありません。諸施設においてたまたま経験されたり、現在考えられている病態について他の疾患から類推されて有効性が推定される治療法です。この試案は具体的な方法を中心に記載することにより、緊急時のベットサイドにおいて有用性を発揮できることを目指しています。
この試案は治療法が模索状態にある現状に対して、わずかでも効果の可能性が推察される方法を取り上げたものです。したがってインフルエンザ脳炎・脳症に罹患した患児に対し、ここに掲げた治療方法が施行されなければならない理由はなく、実際の治療はあくまでも主治医の自由な選択に任されていることは言うまでもありません。また、ご両親に十分説明いただき、インフォームドコンセントを得ておく必要があります。また、厚生労働省及び厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班はこの治療法の結果に関与しませんので、ご了承ください。
もしここに取り上げた治療を御使用になられる場合には・研究会に登録戴き、ここに記載した方法に沿って治療を実施し、また結果を御報告戴ければ、より速やかに治療法の評価・確立に生かすことができます。この試案を第一歩として、より有効性の高い治療が生み出され、近い将来「治療指針」が作成されることが本研究会の願いです。
(2000年度の特殊治療(試案)の結果も併せて記載させていただきました。また、治療法の一部は改訂されており、新しくシクロスポリンの治療法が加わっております。不明な点は担当者または、事務局までお問い合わせください。)
■病態の段階と治療法の選択
※インフルエンザ脳炎・脳症に対する治療法には、以下に挙げるような一般的な治療および対症的な治療が、適宜患児の状態に応じて先行して行われる。状態によっては呼吸管理を必要とし、即座にICU管理へ移行する例も少なくない。
- 脳浮腫に対する治療
- 抗けいれん対策
- 感染症対策
- 抗凝固・抗血栓療法
- 血小板・赤血球の補充療法
※インフルエンザ脳炎・脳症は、感染から脳炎・脳症を発症し播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全に至るが、その経緯を次の4段階に分けて考えることができる。
【A】インフルエンザ脳炎・脳症の病態の推移
- Phase I:インフルエンザ・ウイルスの感染、増殖
- Phase II:脳炎・脳症の発症
- Phase III:全身症状の悪化、細胞死・組織障害の進行
- Phase IV:DIC、多臓器不全
【B】それぞれの段階で用いられる可能性のある治療法
※経過が急速に進むため治療法の選択は困難であるが、一応の目安を示す。
Phase I 抗ウイルス薬
Phase II ↓ γ-グロブリン大量療法 ステロイド・パルス療法 CyA 療法 脳低体温療法 ↓ ATIII大量療法 Phase III ↓ ↓ 血漿交換療法 ↓ ↓ ↓ Phase IV ↓ ↓ ↓
【治療法に関する一般的な注意点】
※ステロイドパルス療法を含むステロイド薬の使用は、抗サイトカイン療法、あるいは対活性化マクロファージ療法として有効であると思われる。ただしステロイド薬は凝固能を亢進させる可能性があることに注意を要する。
※AST/LDH/CK上昇や尿中β2-ミクログロブリンの著増は、全身性炎症反応症侯群(SIRS)、ウイルス関連血球貪食症候群(VAHS)などの病態から類推すると、腫瘍壊死因子(TNFα)やインターフェロンγ(IFNγ)が著増した高サイトカイン血症による病態が推察される。このような状態に対する治療法が、インフルエンザ脳炎・脳症に対しても有効である可能性がある。
※不幸にして後遺症を残してしまった患児に対しては、早期よりリハビリテーションによる機能回復訓練を実施する。
■I. 抗ウイルス療法 --- (横浜市立大学小児科:横田俊平)
【アマンタジンの概略】
アマンタジンは、かつて1960年代に抗インフルエンザ効果が報告され、臨床的にも治療効果が実証されていたが、1980年代に至って再評価され、本邦でも1999年冬季よりA型インフルエンザの予防・治療に使用されるようになった。B型インフルエンザには無効である。作用機序は、感染細胞内でのウイルスの脱殻を阻害し、ウイルス増殖を抑制する。厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班2000年度実施の全国調査では本症の約60%の患児に投与され、有効であったとする主治医の報告が多い。
【使用方法】
成人では1日100mgを2回に分服する。本邦における小児に対する検討は乏しいが、下表のような投与量が推奨されている。
年齢 アマンタジン量※ 0〜12歳 4〜5mg/kg/日 分2、最大 100mg/日まで 13歳以降 100mg/日 分2 ※腎機能正常者に対する投与量 (意識障害時には、経鼻胃チューブや注腸による投与が可能です。)
【期待される治療効果】
※アマンタジンは、成人では発病後48時間以内に投与するとインフルエンザ症状を軽症化する効果があり、また発熱に関しては非投薬群に比べて1〜2日間の短縮効果がある。投薬期間は3〜5日間が標準である。
※小児ではA型インフルエンザが疑われ、アマンタジンを用いることを決断した場合には、早期に用いることが肝要である。なおアマンタジンに対する耐性ウイルスの発生が憂慮され、また、副作用もあるため使用対象はハイリスク群とすることが望ましく、健康小児への投与は避けるべきであるという意見がある。
※インフルエンザ脳炎・脳症に対しては、抗ウイルス剤以外の治療法との併用も可能である。具体的には前述の如く保険適用がなされているアマンタジンの投与を実施していく。【副作用】
副作用は消化器症状と中枢神経症状が認められる。食欲低下、嘔気、不眠、集中力低下、易疲労感などが経験される。重大な副作用として抑欝状態、振戦、歩行障害などが報告されているが、短期間の投薬では副作用は少ない。
【アマンタジンの効果】
インフルエンザ脳炎・脳症に対するアマンタジンの効果は不明である。しかし他の治療法とともに、抗ウイルス療法を併用することは理に叶ったことである。1999/2000年インフルエンザ流行シーズンにおいて88例のインフルエンザ脳炎・脳症が集計されたが、本剤の治療効果を解析した結果が下表である(厚生省インフルエンザ脳炎・脳症研究班2000年度報告より)。
表中の(a)および(b)におけるアマンタジン使用例は(c),(d)に比較して多い。このデータは、アマンタジン投与について症例選択のバイアスがなかったと仮定すると、アマンタジン投与により軽症化が図られたと分析できる。
【ノイラミニダーゼ阻害剤】
現時点では、ノイラミニダーゼ阻害剤(オセルタミビル、商品名タミフル及びザナミビル、商品名リレンザ)の小児への適応は認められておりません。しかし、インフルエンザB型にはアマンタジンは無効であり、結果の項にも記載されているように、インフルエンザ脳炎・脳症の小児に使用される症例もかなりあるのが現状です。
オセルタミビルについては、成人では1カプセル75mg 1日2カプセルの使用ですが、小児では2mg/kg/回を1日2回、5日間の使用が標準的です。
もしノイラミニダーゼ阻害剤を本症の治療に用いられる場合もご報告いただければ幸いです。
■II. ガンマグロブリン大量療法 --- (千葉大学小児科:黒木春郎)
【概略】
ガンマグロブリン静注は、川崎病、特発性血小板減少症、低ガンマグロブリン血症への補充療法などに行われる治療法であるが、ここでは、インフルエンザ脳症への治療法の一つとして報告された方法に関して紹介する。作用機序のひとつとして、インフルエンザ脳炎・脳症の病態とされる高サイトカイン血症に対する効果が推察される。
【適応】
インフルエンザ脳炎・脳症の発症初期に適応があると思われる。
【具体的な方法】
インフルエンザ脳炎・脳症に対する治療法としては1g/kg/15hr・点滴持続静注を行う。
1) 投与方法
※γ-グロブリン溶液の輸注は、副作用を避けるため、輸液ポンプまたはインフュージョンポンプを用いて、注入速度を一定に保つことが重要である。
※輸注開始当初の15分間は0.5ml/min (0.01-0.02ml/kg/min)の速度で持続静注し、担当医は患児のベッドサイドでアナフィラキシーの有無を観察する。開始後15分後に血圧測定を行うことが望ましい。
※その後は0.1ml/minの速度で静注を持続する。
2) 他の推奨されている投与方法
※投与速度に関しては各能書では以下のようになっています。
▽帝人(ベニロン-IR):投与開始15-30分間は0.01-0.02m1/kg/min異常所見がなければその後0.03-0.06m1/kg/minまで上げて良い。
▽吉富製薬(ヴェノグロブリンーIHR):投与開始後1時間は1ml/kg/hr以下の速度で行い、不快感がなければその後投与速度を徐々に2ml/kg/hrまで上げても良い。
※なお、川崎病に対するγ-グロブリン大量療法に関する論文では、2g/kgを約10時間以上(range 8-12hr.)と報告されています。【利点】
※小児科医にとって慣れた治療法であり、患児への侵襲も少ない。
※インフルエンザ脳炎・脳症に対する治療法として報告されている血漿交換療法、脳低体温療法などの治療法に比べて侵襲が少ない。【欠点】
※血液製剤であるため、未知の感染因子の混入が否定できない。
※ヒトのγ-グロブリンであるが、抗原感作が起こる可能性がある。
※アナフィラキシー・ショック、アレルギー反応の症状を起こしうる。
(発熱、発疹、咳嚇、顔面蒼白、血圧の低下、ショックなど)
※川崎病などで実施するγ一グロブリン400r/sの点滴持続静注と比して、血圧の変動、嘔吐を来しやすいという印象もある.
※保険適応外の治療法である.【実施上の注意点】
※生物製剤であるγ-グロブリンの利点・欠点について、患児とその家族への情報提供は必須である。
※点滴静注時には、担当医はベッドサイドにいて観察を続け、血圧の測定、その他ショックの際の緊急の対応を準備しておくことが重要である。【参考文献】
- 坂田宏、岡本年男、中村英記:大量ヒト免疫グロブリン、デキサメサゾンおよびアマンタジン投与により後遺症なく回復したインフルエンザ脳症の2例.小児感染免疫. 12:85-88, 2000.
- W Newburger, et al. A Single Intravenous Infusion of Gamma Globulin as Compared with Four Infusion in the Therapy of Acute Kawasaki Syndrome. N Engl J Med vol.324: No.23 June 6, 1633-1639. 1991.
■III. メチルプレドニゾロン・パルス療法 --- (東京医科大学小児科:河島尚志)
【概略】
インフルエンザ脳炎・脳症に対する確立した治療は未だないが、高サイトカイン血症が認められること1、血球貪食像が認められること2、が確認されてきている。このため、高サイトカイン血症や血球貪食の是正のためにメチルプレドニゾロンパルス療法の有効性が期待される。
【適応】
インフルエンザ脳炎・脳症の診断がなされた時点で、早期に開始すべき治療法と考えられ、脳炎・脳症の各phaseでの適応が考えられる。具体的には、意識障害が遷延(6時間)や頻脈などのSIRSの条件を満たすような時点での使用が進められる。また、42℃以上の高体温の継続の時点でも死亡率が高い事から使用を検討すべきと考えられる。
【具体的な方法】
※methylprednisolone(ソルメドロールR) 30mg/kg(max.1g) 1時間以上(一般に2〜3時間)かけて持続点滴離注し、効果が認められれば連続3日間継続する。
※パルス療法中は、ヘパリン100〜150単位/kg/davを同時に併用する必要があり、活性化部分トロンボプラスチン(APTT)を1.5〜2倍に延長した状態で用いる3。
※他の方法として早期超大量療法(mPSL30mg/kgを15分間行い、その後45分休薬し、再び5.4mg/kg/hrを23時間行う)も有用な可能性がある4。
※後療法として経口・静注用ステロイドの使用はパルス療法の反応をみた上で行うが、一般に使用していないが、暫減中止を行っている症例もある。
※ステロイド薬の髄注に関しては20〜40mg髄注にて後遺症なく治癒した4例の報告があり5。
※デキサメサゾン(0.15mg/kg×4回(6時間間隔))4日間を使用する事も行われているが、デキサメサゾン単独での有効性の報告はない又は少ない。【期待される効果】
※脳浮腫の改善
※高サイトカイン血症の改善
※病態としての血球貪食症候群状態の改善【利点】
※迅速性:静脈ラインが確保できれば即座に実施が可能である。
※簡便性:血漿交換療法や脳低体温療法に比較して、簡便に実施できる。
※再実施:繰り返し行うことができる。
※併用性:他の治療法であるATIII療法、抗ウイルス薬治療、血漿交換療法、脳低体温療法などと併用して実施が可能である。
※脳炎・脳症の早期でも進行期でも実施が可能である。【欠点】
※脳炎・脳症の症状の悪化の可能性がある。
※作用が一過性で、リバウンドが起こりうる。
※二次感染の危険性がある。
※apoptosisを誘導する6(一部に、apoptosisと病態の関連が指摘7)
※免疫抑制によりウイルスの増殖を促す可能性がある8【実施上の注意点】9,10,11
※副作用として、以下のものが報告されているが、とくに心血管系の副作用には注意が必要であり、モニターリングは必ず行う。可能であれば、脳波,脳血流、脳圧モニターも同時に行う。
- 心血管系:不整脈(心室性頻脈、徐脈など)、心筋梗塞、突然死、高血圧
- 鉱質コルチコイド様作用:低カリウム血症、ナトリウム、水分の貯留
- 神経系:脳圧の充進(pseudotumor cerebri)、痙攣、うつ
- その他:感染、高血糖、消化管出血、筋力低下、過敏反応(アナフィラキシーショックなど)、味覚障害(金属臭など)、発赤、熱感、低フィブリノーゲン血症、膵酵素の上昇、凝固亢進による血栓
【これまで報告された効果】
※徳島大学より救命例の報告12
※東京医大より脳波上の改善例が報告13
※その他の報告14,15,16【文献】
- 富樫武弘、他:インフルエンザ流行中にみられる小児期脳炎・脳症の脳髄液中IL-6,TNFα.日本小児科学会誌. 1999;103:16-19.
- 管野かつ恵、他:virus hemophagocytic syndromeを合併した急性壊死性脳症の一例.小児科臨床.1999;52:985-90.
- 辻 祐一郎、他:注射用ステロイド薬の適正使用〜その注意点と対策.アレルギー・免疫. 1999:6;143-8.
- Bracken MB, et al. Administration of methylprednisolone for 24 or 48 hours or tirilazad mesylate for 48 hours in the treatment of acute spinal cord injury. JAMA 1997;277:1597-604.
- De1zanno GB, et al. 4 cases of inf1uenzal meningo-encephalitis treated with intrathecal methylprednisolone acetate. Clin Ter 1969;50:357-61.
- Kiyoshi Migita et al. Apoptosis induction in human peripheral blood T lymphocytes by high-dose steroid therapy. Tranplantation 1997;63:583-587.
- 松村美穂、他:インフルエンザウイルス感染細胞のアポトーシス誘導機構.日本臨床. 1997;55:2666-9
- Geoffrey JG et al. Modulation by immunosuppressive agents of peripheral blood mononuc1ear cel1 responses to inf1uenza A virus. J Lab Clin Med 1987;110:592-601.
- Pankaj Hari et al. Pulse corticosteroid therapy with methyl-prednisolone or dexamethasone. Indian J Pediatr 1998;6:431-440.
- 大島久二:ステロイドパルス療法II. 炎症と免疫. 1998;6:431-440
- 高岡昇教他:メチルプレドニゾロンパルス療法によって低フィブリノーゲン血症をきたした再生不良性貧血の1症例. 北海道医誌. 1997;72:239-240.
- 小林鐘子他:ステロイド・パルス療法が奏効したインフルエンザウイルスによる急一性壊死性脳症の1例. 脳と発達. 1999:31:579
- 河島尚志他:インフルエンザ脳炎における経時的脳波変化-ステロイド・パルス療法の有用性. 東京医科大学誌2001;59,149-153.
- 石井孝徳他:ステロイドパルス療法が奏効したと思われるインフルエンザウイルス脳症の1例. 日小児会誌. 2000;69,1225.
- 大槻則行他:軽度低体温療法とステロイドパルス療法の併用が効果を示したインフルエンザウイルス関連性急性脳症の2例. 脳と発達. 2000;32,318-322.
- 木村清次他:インフルエンザ関連性脳炎・脳症26例の臨床的検討. 小児科臨床. 2001;54,193-199.
■IV. アンチトロンビン大量療法 --- (熊本大学小児科:布井博幸)
【概要】
インフルエンザ脳炎・脳症の予後不良例においては、けいれんを伴う精神症状にしばしば播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴っていることがわかりました。このことからインフルエンザ脳炎・脳症の全身性臓器障害では、血管内皮障害がこの疾患の病態に重要な役割を担っていることが推測されるようになってきました。一方、血管内皮の障害による二次的な凝固線溶系の異常とそれに続く好中球の活性化による組織障害に対して、アンチトロンビン(AT)大量療法(120〜150単位/kg)が有効であることが最近報告されています。特に血管内皮炎が起こっている局所でATが働くことが明らかにされ、インフルエンザ脳炎・脳症の全身性臓器障害にもAT大量療法が有効ではないかと考えられます。実際、Reye様症候群、敗血症によるDICなどの多臓器障害状態にも有効です。またDICを伴った急性脳症の症例にもATIII大量療法が有効である症例を経験しました。このATIIIの使用は現在のところ、DICに対して40〜50単位/kgの投与量を3〜9日間までは認められていますが、120〜150単位/kgを5日間使用する治療は認められておりません。 予め、先進医療などの医療費対策をしておく必要があります。この方法はインフルエンザ脳炎・脳症の各フェーズに有用な方法と思われますが、より早期の使用が有効だと思われます。ただし、ヘパリンとの併用は効果を抑制しますので、禁忌です。
【適応】
- インフルエンザウイルス感染が疑われる患者であること。
(インフルエンザの迅速キットで抗原陽性であることが望ましい)- けいれんや急速に進行する意識障害(JCS>20)などの重篤な神経症状が認められること。
- 血小板減少または何らかの凝固能異常が認められること。
(血小板数<15万またはPT<75%, APTT<75%, FDP>10 ug/mL)- 肝機能異常または腎機能障害が認められること。
(GOT>100 IU/l, GPT>100 IU/l, LDH>800 U/Iまたは尿のpH>6.5で尿細管性アシドーシスが疑われる)
※判断:1.が疑われ、2.の症状があり、3.または4.のいずれかの所見がある。【具体的な方法】
- 対象
※播種性血管内凝固因子症候群(DIC)を伴ったインフルエンザ脳炎・脳症患児。- 方法
※ATIII 250単位/kg(1時間)点滴静注、5日間連続投与。症状の変化、効果を確認の上、延長も可能である。
※急性脳症に対して行われる従来の治療(脳圧降下のためグレセオール点滴静注、デキサメサゾン静注投与、播種性血管内凝固症候群に対する新鮮凍結血漿投与、FOY、血圧降下に対するDOA/DOBなど)に加え、ATIII大量療法を実地する。ただし播種性血管内凝固症候群で一般的に用いられるヘパリン療法はATIIIの効果を抑制するので使用しない。【期待される効果】
※播種性血管内凝固症候群を伴う急性脳症は急速に脳浮腫を起こし、重大な後遺症を残すことが多いが、これは血管内皮細胞の障害が原因の一つと考えらる。今回のATIII大量療法により、血管内皮細胞障害の改善にともない凝固能の回復および過剰な免疫反応が改善され、それに続く諸臓器障害が軽快し、後遺症の軽減が予測される。
昨年までの3症例の経験から、主治医はいづれも有効であったと判断されている。確かにAT使用後の副作用は無く、凝固系と肝機能には改善が得られているようだが、3症例中2例は死亡されている。以上のことより、脳症そのものの改善には直接繋がらないが、AT大量療法は基礎の病態を改善するには有効と考えられる。【利点】
※基本的にどの病院でも出来る治療法である。
※ATIII大量治療は40-60単位/kgではDIC患者にすでに承認されている安全な治療法である。
※ATIII大量療法(250単位/s)についても成人型呼吸切迫症候群に用いられ、その効果および安全性についても確認されている。【欠点】
※保険診療として認められていない。
※高額である。
※ATIIIの保険適用疾患としてインフルエンザ脳炎・脳症が挙げられていない。【実施上の注意点】
※ATIII大量療法は、DICでは30-60単位/kg、連続5日間程度は保険診療として認められているが、125単位/kg、連続3日間は高額であり、しかも保険診療として認められていない。できれば倫理委員会などに審議をお願いし、正式な手続きをしておくことが必要と考えられる。【副作用報告】
※承認時4499例の使用経験では、発疹1名、嘔気1名、肝障害1名、好酸球増加1名、頭痛1名、発熱1名、重複1名で、副作用率0.11%であった。
※その後2000年9月までの市販後調査でいずれも重症な基礎疾患のある患者で5名の重篤な副作用(アナフィラキシー・ショック、心停止、血圧上昇、肺水腫)が報告されている。【文献】
- Uchida M, Okajima K, Murakami K, et al. Attenuation of endotoxin-induced pulmonaly vascular injury by antithrombin III. Am J Physiol 1996;270:1920-30.
- Fuse S, Tomita H, Yoshida M, et al. High dose of intravenous antithrombin III without heparin in the treatment of disseminiated intravascular coagulation and organ failure in four children. Am J Hematol 1996;23:581-8.
- Eise1e B, Lamy M, Thijs LG, et al. Antithrombin III in patients with severe sepsis. A ramdomized, placebo-controlled, doub1e-blind trials with antithrombin III in severe sepsis. Intensive Care Medicine 1998;24:663-72.
- Inthorn D, Hoffmann JN, Hartl WH, et al. Effect of antithrombin III supplementation on inflammatory response in patients with severe sepsis. Shock 1998;10:90-6.
■V. 脳低体温療法(軽度低体温療法) --- (小田原市立病院小児科:大槻則行)
【概要】
低体温療法は、成人の頭部外傷や蘇生後脳症などに対して施行され、効果をあげている。インフルエンザ脳炎・脳症では髄液中の炎症性サイトカインの増加が認められ、中枢神経内の異常な免疫反応の存在が示唆されている。低体温療法は、このような過剰な免疫反応を抑制し、神経障害の拡大を阻止することを目的として施行される。
【適応】
○意識障害、痙攣(重積)等で発症
○脳炎・脳症:急性期であること
○脳波の所見:高圧徐波、低電位活動等一意識障害を示唆する所見
○人工呼吸器管理を要する例
○髄液所見:特に脳圧亢進例
○Japan Coma Scale:200以上、G1asgow Coma Sca1e:8以下【具体的な方法】
※目標体温:体温を33.5〜35.5℃(-2〜4℃)。脳温(鼓膜温)を33.5〜35.5℃にする。症例の重症度、脳浮腫の程度にもよる。鼓膜温はGenius赤外線鼓膜体温計、さらにMonathermで持続的に計測する。
※実施方法:導入期にはブランケット冷却加温システムを用いる。とくに頭部をアイスノンなどにて冷却する。
(1)体温が38℃以上では、水温を10〜15℃で開始。
(2)体温が37℃以下では、水温を20〜25℃で開始し36℃まで急速に冷却する。
36℃以下になる頃より、1時間に-0.5℃以下のぺ一スで冷却を続行する。
体温が高温の場合には、冷水で胃洗浄を併用する。
※低体温実施期間:3日間以上、7日間以内。
※復温開始:脳波でδ⇒θ波がみられれば復温を開始する。画像所見、髄液所見を参考とし0.5℃/12時間で復温する。期間は7日間以内、悪化所見あれば再度低体温へ戻す。血小板減少、凝固系の変化などは復温時に問題を起こしやすいのでゆっくり復温する。また、経管栄養もあわせて開始する。
※麻酔方法:導入時には、強い麻酔作用と頭蓋内圧降下作用を期待してペントバルビタールを用いる。体温が安定期に入ればミダゾラムヘ変更する。筋弛緩剤も併用する。【軽度低体温療法に用いる薬剤】
- 麻酔剤
a) バルビツール系静脈麻酔剤
pentobarbital, thiopental sodium:1〜4mg/kg/hr
b) GABA agonist
midazolam:0.1〜0.2mg/kg/hr- 筋弛緩剤
pancronium:0.1〜0.2mg/kg/hr- 抗凝固療法
nafamostat mesilate:0.05〜0.1mg/kg/hr
urinastatin:0.5〜1.0万単位/s×3- 脳圧降下
mamitol:1g(5ml)/kg×4, g1yceol:1g(10ml)/kg×4- ステロイド薬
dexamethasone:0.15mg/kg×4 or 0.4mg/kg×2
steroid pulse(methylprednisolone):30mg/kg- 制酸剤
famotidine(gaster):0.5mg/kg×2【実施上の注意点】
※血圧の維持:もっとも困難の問題は、血圧のコントロール維持である。十分な輸液量を維持し、血圧を保つ。DOAなどを併用する。
※総輸液量を80-100ml/kg程度で維持する。脳内熱貯留の回避、異常物質の洗いだしに必要である。また血液希釈は脳虚血に対して有利に作用する。
※逆に、過度の水分制限は血圧低下、脳虚血につながり脳浮腫を悪化させることがある。
※過度な血液希釈は冊の酸素運搬も低下させる。Hctを30-40%に維持。
※低アルブミン血症も、循環動態上好ましくない。血管透過性が亢進し、血管内脱水状態を呈する。アルブミンの補充を急性期に実施しておく。
※低K血症については、3.0mEq/lまでは補正の必要はない。復温時に高K血症になることがあり、過剰な補正には注意を要する。
※血小板減少は明らかな出血症状がなければ問題はない。
※呼吸管理:治療期間中、人工呼吸器管理を行う。急性期を除いてpCO2は35-40mmHg程度に維持する。
※過呼吸状態に対する脳内血管の化学的調節は、48時間以内に順応し、むしろ脳虚血に傾き増悪因子になることがあるため正常換気を心がける。
※PEEPは脳圧上昇につながるため、肺に問題がなければできるだけ避ける。
※O2はfree radicalの発生への配慮が必要であるが、SaTO2/PaO2を指標に必要十分な濃度で投与する(しかし低体温ではPaO2/PaCO2は実測値より高くpHは実際値より低く測定されるため注意を要する)。
※血糖は脳内で使用されるが、高血糖は嫌気性代謝に傾くため管理を要する。
※低体温実施中は、基礎代謝が低下しており異化が亢進することはない。
※点滴は維持輸液とし、総合ビタミン剤を配合する。
※初期のアミノ酸投与は、肝臓への負荷などがあり一般に投与はしない.
※脳圧亢進の抑止:脳圧降下剤は、頭蓋内圧をモニタリングしながら用いることが望ましい。
※glyceol/mannitolは、脳圧をモニタリングして、投与間隔、投与時間、交互に使用する、などを検討しながら用いる。CT/MRI画像所見、脳波、髄液圧などを検討してから使用することもある。glyceolは肝臓(TCAサイクル)で代謝されるためReye症候群では禁忌であるため、この場合にはmannitolを使用する。問題点は、脳一血液関門の障害が著しい部位ではmannitolの効果が乏しいことである。
※mannitolの使用法:2.5〜5ml/s(0.5-1g/kg)を1時間かけて点滴静注する
1日に3〜6回の投与を行う。frosemideの併用も行う。
※[CPP]:cerebral perfusion pressure = 平均血圧 - ICP。血圧の管理は重要
※脳血流量の維持もあり、頭部挙上は約10°までとする。
※薬剤の問題:
バルビタール系薬剤:バルビタールは正常部位の血管を収縮させて虚血部位への血流を増加させることにより保護作用を示すが、一方TCAサイクルとミトコンドリア電子伝達系の代謝ブロック作用によりATP産生ができなくなる。
また循環抑制と易感染性もある。そのためけいれんの抑止困難な例に急性期のみ使用する。
ステロイド薬:細胞内へのブドウ糖の取り込みの抑制と神経細胞から放出されたグルタミン酸のグリア細胞への取り込みを抑制する。このため神経細胞障害をさらに悪化させ、神経細胞死にも関与するとの報告がある。ステロイド薬をサイトカイン産生抑止のために使用するには、使用時期、量、期間などを考慮する必要がある.
※麻酔剤・筋弛緩剤投与により無気肺が出現しやすく、さらに感染のfocusとなりやすいことに注意を要する。【期待される効果】
※脳保護効果
※抗脳浮腫効果
※サイトカイン産生抑制効果【利点】
※過剰な免疫反応の存在が推定される本症の中枢神経系に対して、免疫抑制を行うことができる唯一の方法である。
※脳圧が、亢進していると考えられる例に適する。【欠点】
※ICU管理を要し、熟練した管理者が必要である。人手を要する。
※種々のモニタリング機器を必要とする。
※Nrsなどのスタッフにも慣れた人員が必要となる。
※血圧管理や人工呼吸器管理を要し、三次医療施設が必要である。
※以上の要件から、一般病院での低体温療法は困難であり、緊急を要する本症患児をさらに転送せねばならない場面が想定される。
※無気肺、肺炎などの合併症を起こしやすい。
※脳画像診断のために検査が実施しにくくなる。【文献】
- 林成之:脳低体温療法. 東京. 総合医学社. 1995.
- 新井達潤:脳蘇生と低体温療法. 東京. 真興交易医書出版. 1997.
- 片岡喜由:脳低体温の基礎と臨床. 東京. 総合医学社. 1998.
- Gunn AJ, Gluckman PD, Gunn TR. Sekective head cooling in newborn infants after perinatal asphyxia: a safety study. Pediatrics 1998;102:885-92.
- 林成之:脳低体温療法のICU管理技術. 救急医学. 1999;23:623-36.
- 木村清次:急性脳症の病態と治療に関する考察〜とくにメチルプレドニゾロンパルスおよび脳低体温療法の有用性について. 小児科. 1999;40:1614-21.
- 中下誠郎、松尾厚子:インフルェンザ脳炎・脳症に対する脳低体温療法. 小児科. 1999;31:231-5.
- 木下浩作、林成之:脳低体温療法の実際. 医学のあゆみ. 1999;188:733-7.
- 水口雅:インフルエンザ関連脳炎・脳症〜病態と治療〜. 小児科. 2000;41:1586-93.
- 林成之:小児インフルエンザ脳炎の予後は脳温上昇で決まるのでは?脳と発達. 2000;32:156-62.
- 藤田之彦、小平隆太郎、大久保修、他:脳低体温法の小児への臨床応用. 小児科. 2000;40:397-404.
- 大槻則行、木村清次、根津敦夫、他:軽度低体温療法とステロイドパルス療法の併用が効果を示したインフルエンザ・ウイルス関連急性脳症の2例. 脳と発達. 2000;32:318-22.
■VI. 血漿交換療法 --- (横浜市立大学小児科:横田俊平)
【概要】
インフルエンザ脳炎・脳症は、発熱から短時間のうちに突然けいれんを起こし、意識障害が続き、その後全身状態が悪化してDIC、多臓器不全に至る。中枢神経障害が先行し、その後あたかも全身性炎症反応症候群(SIRS)様の病態に至る。意識障害の進行に伴って、血液検査で帽AST/LDH/CKが急速に上昇し、FDP-E/D dimerおよび尿中β2-ミクログロブリンの著増をみる。いずれも炎症性サイトカインに誘導される蛋白であることから、全身状態の悪化が進行する時期には高サイトカイン血症が生じていることが推察される。この状態を改善するために血漿交換療法が有用である可能性がある。【適応】
※けいれん、意識障害にて受診し、インフルエンザ脳炎・脳症が疑われ、AST/LDH/CKなどの上昇、FDP-E/D dimerの上昇が認められた症例が適応になる。
※PhaseI〜IVが対象になる。【具体的な方法】
- 血漿交換の流れ
※1回の血漿交換の処理量は算定して循環血漿量とする。回路の体外循環量による血漿交換の効率を考慮すると、3日間で全血漿の置換が行われることになるので、3日間を1クールとして実施する。- 脱血・返血ルートの確保
※脱血・返血は、動脈⇒静脈(榛骨動脈⇒肘静脈)または静脈⇒静脈(肘静脈あるいは大腿静脈)の2通りがある。
※大腿静脈にルート確保する場合には、小児血漿交換用VAS-CATHRが有用である。常用されるIVH用ダブルルーメン・カテーテルより閉塞を起こしにくいという利点がある。
※末梢動静脈を使用する場合には、動脈は榛骨動脈を22〜24G針で、また静脈(肘静脈など)は18〜22G針を用いて血管確保することが多い。血漿交換を終了した後、返血に圧力がかかるため、概して静脈には太い針を用いることが必要になる。- 血漿交換量の設定
※1回の血漿交換で行う血漿処理量は、循環血漿量を以下のように算定して設定する。
循環血漿量:体重(kg)×1000/13×(1-Ht(%)/100)
- 置換液の準備
※置換液は、未知の感染因子の混入をなるべく回避するため、凍結新鮮血漿(FFP)は用いずに、アルブミン液(5%ブミネートR)を使用する。しかし凝固異常が認められる場合には、FFPを用いることも選択枝のひとつである。- 体外循環量の推定
※最近、種々の小児用の低容量の血漿分離膜が開発され、小児の血漿交換療法も容易に実施できる環境が整いつつある。また血漿交換回路の工夫により、従来最低でも150mLを必要とした体外循環量は、最近では50mL程度まで圧縮されるようになった。これらの進歩により体重4sまでの小児に血漿交換療法を行うことができるようになった。ただし、体重10s以下の小児に対しては、急激な循環血液量の変動をなるべく抑えるため、あらかじめ回路内を濃厚赤血球液(MAP)と5%アルブミン(またはFFP)を半量ずつ混じたもので満たしておく。- 使用機器
※血漿分離膜は、プラスマフロー:02W(R)(旭メデイカル社:ボリュウムが少ない)、膜型血漿交換装置は、クラレKM8800(R)(クラレ社)を使用する。- 抗凝固療法
※ヘパリン、凝固異常がある場合にはフサンを用いる。【期待される効果】
※高サイトカイン血症の改善により、細胞障害、組織障害の進行を阻止できる可能性がある。
【利点】
※急速に進行する全身の病状悪化を、即時的に改善させる可能性がある。
※最近では機器の進歩、技師の技術的向上により、かなり安全に実施できるようになった。
※置換液としてFFPの代わりにアルブミンを用いることにより、未知の感染因子の混入を避けることができる。【欠点】
※小児に対する血漿交換療法は、充分なスタッフと熟練した透析技師がいてはじめて成功する。したがって実施可能な施設が限られる。
※保険適応外の高価な治療法である。
※FFPを用いる場合、未知の感染因子の混入が否定できない。
※FFPを用いる場合、アナフィラキシー・ショック、アレルギー反応の症状を起こしうる。【実施上の注意点】
※ICU管理として、循環系、呼吸器系、凝固線溶系、IN-OUTバランスのモニタリングなど、血漿交換療法に付随する管理が充分に行われる必要がある。
※熟練した透析技師、看護体制が必要である。【文献】
- 森雅亮、友野順章、横田俊平:ガンマグロブリン大量療法が奏功せず、血漿交換にて冠動脈変化の改善をみた川崎病の1女児例. 日本臨床免疫学会誌. 1999;18:282-8.
- 今川智之、横田俊平:川崎病における血漿交換療法. 小児科臨床. 1997;50:2217-21.
- Imagawa T, Miyamae T, Ito S, et al. Plasma exchange for intractable Kawasaki disease. The 6th International Kawasaki Disease symposium(Hawaii), Abst.28.1999.
■VII シクロスポリン(Cyclosporine A)療法 --- (埼玉県立小児医療センター感染免疫アレルギー科:鍵本 聖一)
【概要】
インフルエンザ脳症においては、けいれんや意識障害に引き続き肝、腎、造血臓器、筋、心筋などの多臓器が短時間に機能不全に陥るが、アポトーシスが関与するメカニズムが想定されている。感染、薬剤、低酸素や血流障害とこれに対して行われる酸素投与や蘇生、局所で産生されるTNF-alphaなどにより引き起こされるミトコンドリア障害により内外膜間腔に保存されているcytochrome Cをはじめとするアポトーシス惹起物質を細胞質に放出することが、その後のアポトーシスの引き金を引くものと考えられる。インフルエンザ脳症発症直後の肝細胞には中心核性の小脂肪滴を中心とした脂肪変性、膨化、マトリックスの低密度化、クリステの消失といった明らかなミトコンドリア変化や広汎なアポトーシスが認められ、このプロセスは他の臓器にも短時間に同期的に起こっていると考えられる。Cyclosporin A (CyA, 分子量 1202.92)は、ミトコンドリア内膜に凝集してporeを形成しミトコンドリア膜電位を低下させる働きのあるcyclophilinに結合してこの働きを抑え、ミトコンドリア膜電位の低下を防止することによってこの経路を介したアポトーシスを阻害することが知られている。インフルエンザ脳症の治療には全身の強力な支持療法が不可欠であるが、disease processを抑える別のアプローチとして、CyAは有望な選択肢と考えられる。完成されたアポトーシスや臓器再生には無効であり、早期の投与が必要と考えられる。
【適応】
多臓器不全が進行しているインフルエンザ脳症の疑われる急性脳症。
急速に進行するGOT:GPT>5のトランスアミナーゼ上昇(GOT>500)
ミトコンドリア障害が疑われる所見:mGOT>100 IU/l、乳酸/ピルビン酸>20
凝固障害 PT<40%、HPT<30%でVitK2で是正されないもの
無尿、乏尿
意識障害【具体的な方法】
- CyA 1〜2 mg/kg/dを輸液ルートより投与する
24時間連続、あるいは数時間での投与を1日2回
7日間投与効果に応じ、継続、中止。
※血中濃度は概ね100〜200 ng/ml(約0.1〜0.2 uM)、肝不全、腎不全時に上昇することを考慮。(実験的な有効濃度は0.2〜20 uM程度であり、25 uM以上の過剰投与はむしろアポトーシスを惹起するとされる)。
腎不全時はクレアチニン値(mg/dl)で除した量を目安とし、血中濃度で調節- 従来の他の方法を妨げない(併用に際し注意を要す)。
【期待される効果】
- 多臓器不全の進行の停止
- 高サイトカイン血症による悪循環の遮断
発熱、DIC、HPSなど- ARDSなどの肺病変の改善ないし予防
【欠点】
- CyA脳症の存在。過量投与や体質により発症。インフルエンザ脳症との鑑別は投与の時間経過や血中濃度である程度鑑別できる可能性あり。
- 脳症以外にも副作用がある。
腎障害、膵炎、日和見感染症(EBV、herpes、CMV、真菌など)- 高額である。
- 保険適応外である。
【実施上の注意点】
- 併用薬注意(注意)
アミノグリコシド、AMB、VCM、ST、NSAIDS→腎障害増強
Ca拮抗剤、EM、JM、FLCZ、ICZ、NFLX、アロプリノール→血中濃度上昇
mPLS→パルスの併用で血中濃度上昇、けいれん
ジゴキシン→ジゴキシンの血中濃度上昇から中毒注意など- 注意すべき副作用
ショック
腎障害、BUN、クレアチニン上昇
肝障害
中枢神経障害
TTP、HUS様症状
感染症
リンパ腫、リンパ増殖性疾患
そのほか多毛、血圧上昇、血小板減少、白血球減少、末梢神経障害、耳鳴など- 器質的な脳障害、遷延した臓器障害への効果は少ないと考えられ、早期に開始することが肝要である。その際、充分なinformed concentを得た上で投与前後の血清、尿、髄液等の臨床検体を可及的に保存しておくことが望ましい。
【文献】
- Friberg H, Ferrand Drake M, Bengtsson F, Halestrap AP, Wieloch T. Cyclosporin A, but not FK 506, protects mitochondria and nuerons against hypoglycemic damage and implicates the mitochondrial permeability transition in cell death. J. Neurosci. 1998, 18:5151-9.
- Halestrap AP, Kerr PM, Javadov S, Woodfield KY. Elucidating the molecular mechanism of the permeability transition pore and its role in reperfusion injury of the heart. Biochem. Biophys. Acta 1998,1366:79-94.
- Lemasters JJ, Nieminen AL, Qian T, Trost LC, Elmore SP, Nishimura Y, Crowe RA, Cascio WE, Bradham CA, Brenner DA, Herman B. The mitochondrial permeability transition in cell death: a common mechanism in necrosis, apoptosis and autophagy. Biochem Biophys. Acta 1998,1366:177-96.
- Walter DH, Haendeler J, Galle J, Zeiher AM, Dimmeler S. Cyclosporin A ihhibits apoptosis of human endothelial cells by preventing release of cytochrome C from mitochondria. Circulation 1998,98;1153-7.
- Zorova LD, Krasnikov BF, Kuzminova AE, Polyakova IA, Dobrov EN, Zorov DB. Virus-induced permeability transition in mitochondria. FEBS Lett. 2000,466:305-9.
- Kobayashi T. [The roles of mitochondria permeability transition in brain ischemia] Hokkaido Igaku Zasshi. 2000,75:243-52.
- Takuma K, Phuagphong P, Lee E, Mori K, Baba A, Matsuda T. Anti-apoptotic effect of cGMP in culutured astrocytes: Inhibition by cGMP-dependent protein kinase of mitochondrial permeable transition pore. J. Biol. Chem. 2001,Oct 24(epub).
- Xu M, Wang Y, Hirai K, Ayub A, Ashraf M. Calcium preconditioning inhibits mitochondrial permeability transition and apoptosis. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 2001,280;H899-908.
- Omagari K, Ashida R, Oh-I H, Minamino Y, Sasaki O, Ozono Y, Maeda T, Sadamori N, Tomonaga M, Kohno S. Successful treatment with cyclosporine in a case of hemophagocytic syndrome manifesting as severe liver dysfunction. Am J. Med. Sci. 1997,314:403-7.
■VIII. リハビリテーション --- (神奈川県総合リハビリテーションセンター小児科:栗原まな)
インフルエンザ脳炎・脳症後遺症児に対するリハビリテーション
リハビリテーションというものは必ずしも特殊なものではなく、機能回復に結びつくすべてのことを意味しており、急性期の状況が安定した後、できるだけ早期から開始されることが望ましい。例えばICUにおいても、間接が拘縮しないための関節可動域訓練や肺炎を予防するための呼吸排痰訓練などの行われることが望ましい。
リハビリテーションの概要として、初期には医療と粗大運動訓練が中心となり、次第に日常生活動作訓練、コミュニケーション訓練、認知訓練などに移行していく。また子どもが後天性障害をもったことに対する家族の落胆は大きく、障害を容易に受容することができないため、障害受容に対する支援も大切である。
脳症罹患後に発症するてんかんは、急性期に引き続いて起こる群と、脳症発症後4〜7ヶ月程して起こる群に分けられるが、いずれも難治性の場合があるので、脳症発症早期からの観察とてんかん発症早期からの治療が大切である。難治例においては「てんかん専門医」の診察をお薦めしたい。【概要】
インフルェンザ脳炎・脳症に罹患した患児のうち、約30%は急性期に死の転帰をとり、約25%は後遺症を残す。とくに後遺症を残遺した患児については社会復帰をめざしたリハビリテーションが必要であるが、そのアプローチの方法についての報告はすくない。
急性脳炎・脳症後のリハビリテーションを目的として受診した患児は、まず知能障害と運動障害の面から4群に分類し、それぞれの特異性に応じたプログラムを用意することがリハビリテーションの第一歩となる。
I群:知能低下のない群
II群:軽度の知能低下を残した群
III群:最重度の知能低下を残した群
IV群:最重度の知能低下と運動障害の重複障害を残した群脳炎・脳症発症までの既往歴、発症状況、現症を比較し、各群ごとのリハビリテーションのプログラムを作成し、予後との関連をみると、
I群:リハビリテーション訓練期間中に機能の回復をみた。
II群:軽度知能低下と高次脳機能障害を呈した。認知訓練が主体。
III群:重度知能低下を呈した。てんかんの治療と家族支援が必要。
IV群:ねたきり状態。てんかんの治療・経管栄養・排痰・吸引指導などの医療面の支援が必要。いずれの群も、各専門領域とのチーム・アプローチを行い、その目標は在宅生活へ結びつけることである。
また、脳炎・脳症後に発症するてんかんは、予後の悪いことが多いので、脳炎・脳症発症早期からの経過観察と、定期的な脳波検査が大切である。てんかんを発症した場合には、早急に治療を開始する必要がある。【リハビリテーションの実際】
<I群>
1歳3ヵ月発症のインフルエンザ罹患時Reye症候群の症例。急性期には脳圧コントロール、呼吸管理、交換輸血等の治療が行われ、意識障害は11日持続した。1歳4ヵ月で当科を紹介された時には座位保持もできず、発語も消失した状態であった。入院ベッドが空くのを待つ間に座位が可能となり、1歳5ヵ月より歩行も可能となったため、外来のみでリハビリテーションを行った。3歳1ヵ月現在、軽度片麻痺を認めるが歩行、走行は実用化しており、知能低下はなく、てんかんの発症もない。頭部MRIは正常であるが、脳波では全般性疎徐波が認められる。リハビリテーションの経過としては、医療面では脳波検査・画像検査を定期的に行い、発達面を含め経過観察を続けている。<II群>
7歳11ヵ月時発症のReye症候群の症例。急性期には脳圧コントロール、呼吸管理、DICの治療、血漿交換療法などが行われ、意識障害は5日持続した。発症1ヵ月後には座位が可能となり、その2週間後には歩行が可能となり、さらに2週間後に経管栄養が中止された。発症3ヵ月後に当科を紹介され転院した。入院時には歩行、走行は可能であったが階段昇降のスピードは遅く手すりを要し、日常生活動作全般を忘れているようであった。日常会話の簡単な内容は理解できたが有意語はなく、運動性構音障害が認められた。てんかんの合併はなかった。頭部MRIで軽度の大脳萎縮、特に側脳室後角の拡大、両側側頭葉にT2・プロトン強調画像、フレアー画像で高輝度の信号域が認められた。家族の障害受容に大きな問題があり、発症後、本人を友人や近隣の人の眼に触れさせることを拒否し続け、自宅への外泊訓練が退院直前まで行えなかった。復学にあたっては院内学級教師の付き添いのもとで前籍校とは異なる特殊学級の見学を行い、復学することができた。入院リハビリテーションを5ヵ月行い、退院時には非常にゆっくりではあるが簡単な会話が可能となり、学習面では2学年程遅れた内容の段階にまで回復した。日常生活動作の多くの部分において健忘や失行が認められた。認知訓練・家族の障害受容・復学への支援が中心であった。<III群>
4歳5ヵ月時発症の原因不明の急性脳症の症例。急性期には脳圧コントロール等が行われた。発症後1ヵ月半より歩行が可能となったが最重度の知能低下をきたし、発症3ヵ月後より脱力発作、短強直発作が出現、γ-グロブリン療法、ACTH療法、種々の抗てんかん薬の調整にもかかわらず、8歳5ヵ月の現在でもてんかんのコントロールは得られていない。画像検査では中等度の広範な脳萎縮が認められ、脳波では全般性のてんかん性発作波が認められた。本症例においても家族、特に母親が障害を受容できず、3ヵ月余り落ち込みから抜け出せない状態であった。本症例においてはてんかんの治療と、家族の障害受容、在宅への支援が中心であった。<IV群>
本症例は脳症発症前に大頭症と軽度の運動発達遅滞がみられていた。11ヵ月時原因不明の急性脳症に罹患し、急性期には呼吸管理、脳圧コントロール等の治療が行われた。発症7ヵ月後に当院に転院した。3歳1ヵ月現在も頸定はなく寝たきりの状態で、最重度の知能低下を呈している。脳症発症5ヵ月後より全身性強直間代発作、短強直発作、ペダル漕ぎ様の発作が出現し、現在もてんかんのコントロールは得られていない。入院時検査で、高度の慢性硬膜下血腫が発見され、血腫除去が行われた。入院当初は退院が難しいと思われたが、在宅への支援に力を入れ、6ヵ月の入院リハビリテーションを行った後・在宅生活へ移行することができた。【解説】
I群からIV群になるにつれて後遺障害が重度となり、III群、IV群においてはてんかんの発症が多い。脳症後に発症するてんかんは難治性が多く、脳症発症早期から十分な観察と、てんかん発症早期からの適切な治療が必須である。
検査所見では、障害が重度なIII群、IV群において脳萎縮が著明であり、さらにIV群においては硬膜下腔の拡大による橋静脈の断裂の結果、著明な硬膜下血腫が認められることがある。
入院期間については、I群からIV群になるにつれて長くなるが、これは障害が重度になる程リハビリテーションに要する時間が長くなり、家族が障害を受容し、在宅生活に戻るまでに準備が必要なことを示している。
各群ごとにリハビリテーションの内容は異なっているが、いずれの群においても最終目標は在宅生活である。在宅生活がかなり難しく思われた症例、特にIV群に該当する症例でも、入院後てんかん治療、硬膜下血腫除去、シャント挿入、吸引指導、経管栄養指導等の医療面を中心としたアプローチと・他の各専門領域からの支援により在宅生活へ戻ることが可能と思われる。
具体的なリハビリテーションの内容は、各群ごとに特徴がみられる。
I群では、産療面では精査と経過観察が中心である。機能訓練としては運動機能が低下している時期の粗大運動訓練と、その後の巧緻性訓練である。
II群では、臨床心理士・言語聴覚士による認知訓練を中心として、各専門領域による支援が行われる。理学療法士は粗大運動の安定化を担当する。作業療法士は日常生活動作の再学習を担当するが、日常動作の多くの部分を忘れているため、1つ1つ再確認しながら繰り返し学習する必要がある。院内学級教師による学習では、発症前に学習済みの部分は比較的再学習しやすいが、未履修部分の学習には困難が伴い、また学習スピードの低下も大きな問督である。体育訓練は、集団での動作のコミュニケーションと・体育動作・例えばボール投げ動作等の再学習を行うが、いずれも手間と時間が必要である:_また、この群讐一見回復が良いようにみえるため、復学においては前籍校に戻らせたいという家族の希望と現実との差が埋められずに問題が起きやすい。復学にあたって配慮が必要である。
III群では、てんかんの治療と最重度の知能低下に対するリハビリテーションが中心である。III・IVの多くはてんかんが発症し・長期にわたり発作が毎日みられている例もある。脳症後に発症するてんかんは難治性のものが多く、てんかんが原因となって機能低下をきたす例もあることから、脳症発症早期からの適切な観察と治療が大切である。また知能低下が著明で・患児の行動が発症前と非常に異なることになるが、その状況を家族は容易に受容できない。また運動機能が回復するにつれて多動となり・安全の確保に困難が生じ・IV群とは異なった面で家族の負担が大きくなる。
IV群では、急性脳症生存例の予後としては最も不良な群である。医療が欠かせない群で、安全な在宅生活を送るための支援が中心となる。この群では、患児と家族を一体として支援し、精神面の安定を含めた「生活の質quality of life」の向上が目標となる。
いずれの群においても、後天性の障害をもったことに対する家族のショックは非常に大きく、リハビリテーションを行うにあたっては、患児の訓練と平行して、家族の障害受容に多くの力を注ぐ必要がある。障害を受容するにはある程度の時間を要するが、その時間短縮するためには臨床心理士とケースワーカーの支援がたいへん有用である。
患児の訓練においては、各専門領域によるチームアプローチが大切であるがこれらの専門スタッフによる支援が受けられる施設は現在のところ非常に限られていると思われる。今後リハビリテーション施設の拡充・充実が望まれる。

【文献】
- 栗原まな、他. 急性脳症後遺症の検討. 脳と発達. 2001;33;392-399.
- 木村清次、根津敦夫、大槻則行、田中文雅、竹下草生子:感染に伴う急性脳症35例の臨床的検討. 脳と発達. 2000;30:244-249.
- Markes DA, Kim J, Spencer DD, Spencer SS. Characteristics of intractable seizures following meningitis and encephalitis. Neurology 1992;42:1513-8.
- 奈良隆寛,浜野晋一郎,野崎秀次,田中佳子,清水正樹,野田洋子,他:急性脳炎・脳症のてんかん発症について〜潜伏期をもたない群の位置づけ〜. 脳と発達. 2000;32:261-7.
- 栗原まな・熊谷公明・中江陽一郎:てんかん患者のMobility低下に関する検討. てんかん研究. 2000;18:3-9.
- 栗原まな、熊谷公明、野田洋子、他:後天性脳障害児の就学に関する検討. 脳と発達. 1999;31:38-43.
■IX インフルエンザ脳炎・脳症に対する特殊治療調査結果(2000/2001シーズン)
二次調査の結果、39例について特殊治療を実施したとの回答を得た。そこで研究会が取り上げた6種類の特殊治療がどのような頻度で使用されたのか、どのような効果を生んだのか、今後の治療にどのような治療法が有効であるかを明らかにするために、特殊治療が実施された39例について解析を行ったので報告する。
1.対象
二次調査にて研究会の試案に沿って実際に特殊治療を実施し、アンケート調査でご報告いただいた患児は39例であった。このうち記載が不明である例、不十分である例を除外し検討の対象となったのは計28例であった。
2.使用された特殊治療法の頻度
- 28例中21例(75%)にアマンタジンが使用されていた。試案公表の時点では予測できなかったオセルタミビルが6例(21%)で使用されており、今後ニューラミニデース阻害薬が抗ウイルス薬として高頻度で使用されてくる可能性が高い。また他の治療法を組み合わせた例も多く、抗ウイルス薬は他の特殊治療の基礎治療と考えていた可能性もある。
- Gamma-グロブリンは15例(54%)で使用された。
- ステロイド・パルス療法は10例(36%)で使用された。ステロイド薬としてメチルプレドニゾロンが用いられていた。別に4例(14%)においてデカドロンが用いられており、デカドロン使用について、主治医は脳浮腫、意識障害に対して通常行っている方法であるためと述べていた。
- ATIII大量療法は2例(7%)で用いられていた。いずれもDIC/MOFの進行とともにATIII低値を確認して用いられた。
- 低体温療法は4例(14%)、2施設で用いられていた。
- 血漿交換療法を用いたのは1例のみであった。
解析結果:
インフルエンザ脳炎・脳症の入院は地域の基幹病院であることが多い。このため、その病院で可能な治療法が選択される傾向にある。この意味ではアマンタジンやオセルタミビルなどの抗ウイルス薬は、経口もしくはチューブを使っての投与が可能であることから、他の特殊治療法の基礎に用いられる傾向にあった。
Gamma-グロブリン療法は地域基幹病院において川崎病や突発性血小板減少性紫斑病などにしばしば用いられる治療法であり、またステロイド・パルス療法も腎疾患、その他で用いられる頻度が高く、いずれも薬剤や治療法に対する「慣れ」がインフルエンザ脳炎・脳症の治療法としても躊躇なく選択されたのであろう。
これに対しATIII大量療法は特殊な治療法である。このため地域基幹病院ではコストの問題などもあり、使用が広がらなかった可能性がある。
低体温療法は小児科医にとって経験が浅く、また血漿交換療法は熟練した技術者と特殊な設備が必要であり、いずれの治療法も早期に導入することで効果が変わる可能性があり、その普及は今後の課題であろう。3.転帰からみた特殊治療法の効果
転帰を4段階に分け(a:軽快、b:軽度後遺症、c:重度後遺症、d:死亡)、それぞれの治療法について転帰からみた特殊治療法の効果を検討した。
アマンタジン使用例では軽快例が9例(43%)、軽度後遺症を含めると15例(72%)と予後良好の例が多かった。アマンタジンおよびオセルタミビルを含めると27例中20例(74%)が軽快または軽度後遺症で済んだ事になる。
Gamma-グロブリン療法、ステロイド・パルス療法、デカドロン療法では軽快例および軽度後遺症例は70〜75%、他方、重度後遺症と死亡例は20〜30%であった。
ATIII大量療法、脳低体温療法、血漿交換療法はいずれも実施した例が少なく、重症例に用いられた事もあり、25〜100%の死亡率であった。4.主治医からみた特殊治療法の効果
死亡例については基本的に治療法の効果を判断することは不可能である(「効果不明」)。これに対し主治医が効果の有無を表記できた例についてみると、いずれの治療法も主治医は「効果あり」が「効果無し」を上回っていた。
結論:
試案に盛られた特殊治療法が適切な時期に導入されることにより、死亡例および重度後遺症例を減少させ得る事が示唆された。

