「特殊教育」から「特別支援教育」へ(平成13年4月全日本手をつなぐ育成会発行)

 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会発行の機関誌「手をつなぐ」平成13年4月号より抜粋。

「特殊教育」から「特別支援教育」へ
−最終報告をもとに課題と可能性を探る

 障害のある子を育てる親として、子どもの就学の問題や学校でのわが子への教育について、悩みをもたなかった親はいないと思います。

 このたび、実に40年ぶりに、これまでの特殊教育のあり方に根本的な検討がなされました。

 そこで、今回は、障害のある児童・生徒の教育について検討を進めてきた文部科学省の「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」(座長は「こころの処方箋」などで有名な心理学者の河合隼雄さんです)が、本年1月にまとめた最終報告をもとに、その可能性と課題についてまとめてみたいと思います。

■「特殊教育ありき」から「一人ひとりの子どもありき」へ

 今回の提言をつらぬく大切な精神は、これまでの、はじめに特殊学級や養護学校ありき、を前提にしてきた特殊教育の在り方に対し、まずはじめに子どもがいて、その子どもー人ひとりのニーズに応じた支援の在り方という視点から検討を重ねた点であると言えます。

 こうした精神が、今回の提言に、どのように反映されているか、特に知的障害児に関する部分を中心に、報告書の中から、注目できる提言についてまとめてみたいと思います。

○就学指導の在り方の見直し

・障害のある子どもとその保護者等に対して、相談支援体制を整備するため、教育・福祉・医療・労働等がー体となって相談支援チームを組織する。このチームはプライバシーに配慮しつつ、記録をファイルするなど、継続的に積み上げていく。

・就学指導の際、保護者の求めに応じて、専門家の意見を聞いたり、子どもがー日入学を体験したり、保護者等が意見表明をする機会を設ける。

○特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応

・養護学校に在籍する日常的に医療的ケアが必要な児童生徒等への対応については、医療的バックアップ体制の在り方について検討をし、その成果を踏まえて指導の充実をはかる。

・自閉症児や学習障害児、注意欠陥/多動性障害児、高機能自閉症児等への教育的対応については、今後の調査研究の成果を踏まえて、教育の在り方を見直していく。

○養護学校の役割、教員の専門性について

・養護学校は、地域の特殊教育に関する教育相談センターとして、地域の小・中学校や幼稚園等への支援センターとして、さらには、地域の障害者にとっての情報教育センターとしての役割を担っていく。

・小・中学校では、特殊学級担当の教員だけでなく、学校全体で支援するとともに、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務職員等の活用について検討する。

・通級による指導にあたっては学級担任は、通級指導担当教員との連携を密にし、ティームティーチングも活用する。

・特殊教育教諭免許状の保有率の向上の目標と計画を策定する。

○卒業後に向けて

・生徒の職業的自立を促進するため、養護学校は、保護者や企業、労働、福祉関係等と連携しながら、在学時から卒業後にわたる個別の就業支援計画を策定する。

■いくつかの疑問、しかし、大きな期待を込めて

 今回の提言に至る過程を見ると、本来は、学習障害児や注意欠陥/多動性障害児、高機能自閉症児等、通常の学級での対応がなかなか困難であるという教育現場における現状から検討の必要性が生じてきたという背景があります。

 また、提言の中には、
・小・中学校で適切に教育ができる合理的な理由がある場合は、養護学校に就学すべき児童生徒であっても、小・中学校に就学可能とする。
・児童生徒の障害の状態に応じて、養護学校と小・中学校との転学、特殊学級と通常の学級間の異動等を円滑にできるよう手続きなどを簡素化する。
 という提言が盛り込まれていますが、エレベーターやスロープ等のハード面やコンピューター等の情報機器・筆記の代替等の条件面での整備に基づいての提言であり、知的障害児に門戸が開かれているとは言いがたい側面があります。

 そうした中で、今回の提言が必ずしも知的障害児をメインに据え、そこに焦点をあてた検討とは言いがたく、そうした意味では、本当に知的障害児にとって、好ましい状況を手繰り寄せることができるのか、不透明であると言わざるをえません。

 さらに、今回の提言の精神である、「一人ひとりの子どもありき」「一人ひとりのニーズに応じた支援」という趣旨から見れば、本来は、生まれ育った地域で教育を受けていくという原則の中で、地域の、例えば特殊教育センターから一人ひとりのニーズに応じて、地域の教育現場へ専門家が出前されていくようなシステムであってほしいと思います。

 しかし、今回の提言で意味している、養護学校のセンター化は、むしろ養護学校そのものの機能強化になっていくのではないかという危惧を感じさせます。

 ただ、今回の提言で、「特殊教育」から「特別支援教育」と名称を変えたことは、単なる看板のすげ替えに終わらず、これまでの特殊教育のあり方に根本的な変化をもたらしてくれる可能性を感じることもできます。

 いくつかの不安はありますが、文部科学省では、早ければ、2002年度の入学者から就学基準を緩和していくとしています。

 こうした提言が、地域において、真に実現していくために、予算措置を伴い、かつ抜本的な法改正にまで踏み込んだ変革にまでたどり着けるように、育成会としても、大きな関心をもって、注視していく必要があると言えます。

☆本文は編集委員会で検討され、まとめられたものです。

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 今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)
(平成15年3月文部科学省調査研究協力者会議答申)

 文部科学省ホームページの「審議会情報」中、「調査研究協力者会議等」より抜粋。

今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)

はじめに

 障害のある子どもの教育をめぐっては、近年のノーマライゼーションの進展や障害の重度・重複化及び多様化の中で、本人や保護者の教育に対するニーズの高まりのほか、地域の実情を踏まえた学校や地域づくりと教育の地方分権の進展等、様々な状況の変化がみられる。

 こうした障害のある子どもの教育を取り巻く最近の状況の変化を踏まえ、21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議が、平成13年1月に「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」をとりまとめ、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した障害のある子どもとその保護者等に対する相談支援体制の整備、盲学校、聾学校又は養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準や就学指導の在り方の見直し、学習障害(LD:Learning Disabilities)等の特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応などについて幅広い視点から提言を行った。

 この提言の中にみられる基本的な考え方は、障害のある児童生徒の視点に立って一人一人のニーズを把握して必要な教育的支援を行うという考え方に基づいて対応を図るというものである。

 国及び地方公共団体においては、この考え方に基づいて同報告書に盛り込まれた内容の実施に努めてきている。例えば、国は、平成14年4月に、障害のある児童生徒の就学指導の在り方の見直しを内容とする学校教育法施行令の改正を行い、各地方公共団体において本年4月の入学者を対象に新しい制度に基づく就学手続が進められた。

 平成14年末、平成15年度を初年度として10年間を見通した障害者関連施策の基本的な方向を盛り込んだ新しい「障害者基本計画」が閣議決定された。

 この中では、障害者の社会への参加や参画に向けた施策の一層の推進を図ることを目的に、障害のある者一人一人のニーズに対応して総合的かつ適切な支援を行うこと、障害の特性に応じた適切な施策の推進を図ること、バリアフリー化の推進等の視点が示され、教育に関しては、障害のある子ども一人一人のニーズに応じたきめ細かな支援を行うため、乳幼児期から学校卒業まで一貫して計画的に教育や療育を行うとともに、LD、注意欠陥/多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)、自閉症などについて教育的支援を行うといった基本方針が盛り込まれた。

 さらに、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が1992(平成4)年に決議した「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たる昨年、この「十年」が更に10年間延長されることが決定されたほか、障害者の社会参加や生活改善に向けた新たな行動目標について関係国の参加の下で議論され、平成14年10月に滋賀県で開催されたハイレベル政府間会合において、「びわこミレニアムフレームワーク」が決定された。この中で、教育も優先分野の一つとされ、2015(平成27)年までに、障害のある子どもを含め、子どもたちはいかなる場所でも、また男女の別なく、初等教育を修了するとともに、あらゆる段階の教育において男女平等である旨の目標が決められた。

 このように、障害のある者の自立や社会参加を支援するという観点から様々な取組が行われている中にあって、本調査研究協力者会議は、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の提言の基本となっている考え方の下に、障害のある児童生徒に対する教育の一層の充実を図るという観点から、個々の障害に固有の事柄、あるいは学校における具体的な指導内容といった個別具体的な課題ではなく、学校の役割や機能、新たな教育のニーズに対応するための体制など、学校教育の全体的なシステムやそれに関わる法令制度に主に焦点を当てて、障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方、小・中学校等におけるLD、ADHD等への教育的対応について2つの作業部会を設け、様々な分野の有識者や専門家により検討を進めてきた。

 平成14年10月22日に、本調査研究協力者会議の意見を整理して、中間まとめとして公表した。本中間まとめについては、広く一般からの意見募集を行い、300を超える各界からの意見を踏まえ、更に審議を行い最終報告をとりまとめた。

 本調査研究協力者会議が検討を進めてきた特別支援教育は、障害のある子ども一人一人の教育的ニーズを大切にするものである。これまでも、個々の教員の努力や学校の独自の工夫により教育的ニーズに対応させる努力は行われてきたが、近年の教育をめぐる諸情勢の変化を踏まえれば、個々の教員の資質に任せた対応、又は学校のみによる対応には限界がきていると考えなければならない。従来の特殊教育のシステムや制度において制約となっていた様々な要因に目を向けて必要な改善に向けて大胆に取り組むことが重要との認識に立っている。

 障害のある子どもの教育の新たなシステムづくりや制度の再構築を目指すという点で、新しく、大きなチャレンジであり、このためには行政や学校はもちろん、家庭や地域社会においても意識改革が必要である。チャレンジがなければ成果もないことを肝に銘じて、教育に関わる者全員が協力して障害のある子どもに対する新しい教育の姿を切り拓いていくことを強く期待する。

第1章  特殊教育から特別支援教育へ

 1 特殊教育の果たしてきた役割

(1)
 これまでの特殊教育は、障害の種類や程度に対応して教育の場を整備し、そこできめ細かな教育を効果的に行うという視点で展開されてきた。具体的には、障害の状態によって就学の猶予又は免除を受けることを余儀なくされている児童生徒が多くいる事態を重く受け止めて、教育の機会を確保するため、障害の重い、あるいは障害の重複している児童生徒の教育に軸足を置いて条件整備が行われてきた。

 盲・聾・養護学校は平成14年5月現在で、全国に993校設置されている。また、障害の状態によって通学が困難な場合には、教員が家庭等において必要な指導を行う訪問教育の制度を設けて積極的な対応を図ってきた。このほか、小・中学校等に就学して教育を受ける障害のある児童生徒に対しても、障害の状態に応じた適切な教育を行うために、特殊学級の設置、又は、通級による指導(通常の学級に在籍してほとんどの授業を通常の学級で受けながら一部特別の指導を受ける制度のことで通級指導教室と称される)の制度化を図ってきた結果、障害があることを理由に保護者の申請により就学を猶予又は免除された児童生徒は非常に少なくなっている(全学齢児童生徒数の約0.001%)。

 現在、特殊教育の対象となっている児童生徒は、義務教育段階でみると、盲・聾・養護学校で約5万1千人、特殊学級については全国の小・中学校の約半数に設置されており、在籍者数は約8万2千人、通級による指導の対象児童生徒数は約3万2千人であり、特殊教育を受けている児童生徒の約7割が小・中学校に就学して、障害に応じた教育を受けている。

(2)
 このように、特殊教育は障害の状態等に応じた弾力的な教育的対応にも配慮しつつ、障害のある児童生徒の教育の機会の確保のために重要な役割を果たしてきた。また、この間、盲・聾・養護学校等において、障害の種類や程度に対応した教育上の経験、ノウハウ等の蓄積、障害に対応した施設や設備の整備等の条件整備が進められるなどにより、障害のある児童生徒の教育の基盤整備については、全ての子どもの学習機会を保障するとの視点から、量的な面において概ねナショナルミニマムは達成されているとみることができる。

2 障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化

(1)
 障害のある児童生徒の教育をめぐっては、@最近では、養護学校や特殊学級に在籍している児童生徒が増加する傾向にあり、通級による指導を受けている者も平成5年度の制度開始以降増加してきていること、Aまた、LD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数について、平成14年文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」(別添)の結果は、その調査の方法が医師等の診断を経たものでないので、直ちにこれらの障害と判断することはできないものの、約6%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性を示していること、Bさらに、盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり、概ね半数近くの児童生徒はその障害が重複していること、肢体不自由の養護学校等では日常的に医療的ケアを必要とする児童生徒が増加していること、知的障害養護学校に多く在籍している自閉症の児童生徒に対する適切な指導法の開発が課題となっていること等の情勢の変化があり、これらを踏まえて今後の適切な教育的対応を考えていくことが求められている。

(2)
 また、LD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒については、これまでその定義、判断基準が明らかでない等の理由から、学習や生活上での困難を抱える子どもの早期発見、専門家等との連携による適切な指導体制の確立等の十分な対応が図られてきておらず、その教育的対応が重要な課題となっている。今後は、これらの児童生徒についても、特殊教育の対象とされる視覚障害、聴覚障害、知的障害等の児童生徒と分けて考えることなく、一人一人の教育的ニーズに応じて特別の教育的支援を行うという視点に立ち、教育的対応を考えることが必要である。

 これにより特別の教育的支援を必要とする範囲は、対象児童生徒数の増加等にみられるように、量的に増加するとともに、対象となる障害種の多様化により、質的に複雑化することとなるため後述する制度の見直し、教育システムの再構築、指導面で高い専門性を有する人材の養成等の取組が必要である。また、人員の配置、施設や設備の整備等について適正な条件整備を図ることも課題の一つであり、近年の国・地方公共団体の厳しい財政事情等を踏まえ、既存の特殊教育のための人的・物的資源の配分の在り方について見直しを行いつつ、また、地方公共団体においては地域の状況等にも対応して、具体的な条件整備の必要性等について検討していくことが肝要である。

第2章  今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方

1 特別支援教育における基本的視点

(1)
 これまでの特殊教育は、障害の種類と程度に応じて盲・聾・養護学校や特殊学級において教育を行う等により、手厚くきめ細かい教育を行うことを基本的な考えとしていた。また、通常の学級に多く在籍すると考えられるLD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活についての特別な支援を必要とする児童生徒に対する教育的対応については、従来の特殊教育は必ずしも十分に対応できていない状況にある。

 これらの障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な対応を図ることが特別支援教育における基本的視点として重要である。

(2)
 また、障害のある児童生徒にとって、自立や社会参加は重要な目的である。可能な限り自らの意思及び力で社会や地域の中で生活していくために、教育、福祉、医療等様々な側面から適切な支援を行っていくことが求められている。

 障害のある児童生徒の教育については、自立や社会参加のための基本的な力を培うために障害の状態に応じて行う教科指導に加えて、自立活動の指導、すなわち、障害に起因して生じる種々の困難の改善・克服のための指導という重要な機能がある。この機能に関しては、近年の国際的な障害観の変化も踏まえれば身体機能や構造の欠陥を補うという視点で捉えることは適切ではなく、生活や学習上の困難や制約を改善・克服するために適切な教育及び指導を通じて、障害のある児童生徒の主体的な取組の支援を行うことを特別支援教育の視点として考えていく必要がある。

(3)
 上記のことを踏まえれば、特別支援教育とは、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、その対象でなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握し、当該児童生徒の持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育を通じて必要な支援を行うものと言うことができる。もとより、この特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置付けられる。

 この場合に、一人一人の児童生徒の教育的ニーズが何かについて、市町村の教育委員会は、児童生徒本人の視点に立って、専門家はもちろん保護者等関係者の意見等を踏まえて正確に把握するとともに、教育的支援を行う関係者、関係機関等の役割分担を明らかにして適切な教育を行うことが重要である。その際、都道府県の教育委員会は、市町村における教育的ニーズの把握が適切になされるよう、市町村に対する支援や連携について考慮する必要がある。

 児童生徒一人一人の教育的ニーズは多様であり、また不変のものでもない。小学校又は盲・聾・養護学校の小学部に入学した者もその実態等に応じて就学先を変更することによりその者の教育的ニーズに対応した教育が可能な場合があることに留意する必要がある。また、小・中学校の特殊学級や盲・聾・養護学校等の利用可能な人的・物的資源を児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて弾力的に活用して適切な教育を行っていくという観点からも、教育の場を固定したものと考えるのではなく、児童生徒の実態等に応じて弾力的に教育の場を用意するという考え方に立って取り組むことが必要である。

(4)
 平成11年7月に関係法令が改正され、地方分権の実現に向けて国と地方公共団体との新しい関係の構築や地方行政体制の整備等が図られたが、この中で、就学事務等は機関委任事務から地方公共団体が行う自治事務に変更された。今後は、児童生徒の教育について、地域の実情を踏まえ、自己決定・自己責任の原則の下で各種事務を行うことが求められるため、例えば就学段階においては教育委員会が中心になって、一人一人の児童生徒の教育的ニーズを踏まえた適切な対応が図られることが必要である。

 これまでの特殊教育は、障害の程度に応じて、教育や指導上の条件が整った場で手厚くきめ細かな教育を行うことを重視し、障害のある児童生徒の就学指導の制度としては、やや画一的な面があった。前述の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」の提言を受け、国は、学校教育法施行令を改正し、盲・聾・養護学校へ就学すべき基準(就学基準)と就学手続の見直しを行った。これにより、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた教育的対応を適切に行うことが制度的に可能となり、今後は、地方分権の趣旨も踏まえて盲・聾・養護学校など特殊教育において整備された人的・物的資源を活用して、現行制度の一層の弾力化や効率的運用、教育、福祉、医療等の関係機関の連携の充実等により、一層質の高い教育を行うことが重要である。

2 質の高い教育的対応を支える人材

(1)
 障害のある児童生徒への質の高い教育的対応を考えるに当たっては、障害の程度、状態等に応じて教育や指導の専門性が確保されることが必要であることはいうまでもない。教科指導や自立活動の指導を通じて学校生活において中心的に児童生徒と関わる教員は、障害のある児童生徒の身近な理解者であり、その意味で、児童生徒の指導に直接関わる教員が、特別支援教育の中でも重要な役割を果たすことが必要である。これまでも、このような認識の下で教員の指導の専門性の向上に向けて様々な取組が行われてきたが、今後は特別支援教育の視点から児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した一層質の高い教育の実現を目指して、教員自ら指導面での専門的な知識や技能の向上に向けて努力することはもちろん、児童生徒の理解者という認識の下で保護者の相談にも親身に対応していく努力が求められる。

(2)
 児童生徒の指導に直接関わる教員の役割に加えて、校長、教頭等学校教育における指導的・管理的役割を果たすべき者のリーダーシップの発揮等が重要である。

 また、障害の多様化を踏まえ、養護教諭、学校医等の学校内の人材の効果的な活用は今後ますます重要になるものと考えられる。さらに、学校内に限らず、医師、教育心理学者、教員の経験者など専門家を幅広く活用して障害に応じた適切な教育を行う必要がある。例えば、盲・聾・養護学校においては、作業療法士(OT: Occupational Therapist)、理学療法士(PT: Physical Therapist)、言語聴覚士(ST: Speech Therapist)等の専門家が指導に参画するほか、小・中学校においても専門家チーム(障害や障害のある児童生徒への指導等について専門的な知識等を有する者の集団で都道府県の教育委員会等に置かれるもの)が巡回相談などの形で学校の教育において有効に活用されている場合がある。このように学校内外の人材の総合的な活用を図るという視点が大切である。

(3)
 また、家庭において、教育はもちろん生活全般で障害のある子どもに幅広く関わる保護者は、重要な支援者の一人である。保護者が家庭等において子どもと接し、教育や療育との関わりの中で適切な役割を担うことは重要なことであり、そのためには障害や子どもの成長や発達についての知識を深めていくことが必要となる。このため、教育委員会は福祉等の関係機関とも連携をとりながら相談や情報提供を通じて適切な支援を行うとともに、一般講座やセミナー等の開催を通じて保護者の理解、啓発の促進を図っていくことがこれまで以上に重要になると考えられる。

3 関係機関の有機的な連携と協力

(1)
 障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して効果的・効率的に教育を行うためには、盲・聾・養護学校と小・中学校の日常的な情報交換はもちろん、児童生徒に対する教育を行う上で密接な連携が不可欠である。また、両機関の教員が意見や情報の交換を日頃から円滑に行えるように都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会が密接に連携協力することが重要となる。

 さらに、障害のある児童生徒のニーズは教育、福祉、医療等様々な観点から生じうるものである。これらのニーズに対応した施策はそれぞれ独自に展開できるものもあるが、類似しているもの、又は密接不可分なものも少なくない。したがって、教育という側面から対応を考えるに当たっても、福祉、医療等の面からの対応の重要性も踏まえて関係機関等の連携協力に十分配慮することが必要となる。また、福祉、医療等の面からの対応が行われるに当たっても、教育の立場から必要な支援・協力を行うことが重要である。

(2)
 また、障害のある児童生徒の教育の重要性を理解し、また、草の根的に、独自のネットワークを活用し、献身的に取り組む「親の会」やNPO等の活動の中には、教育の充実や効果的な展開において重要な役割を果たしてきたものもある。今後、教育委員会や学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して質の高い教育をより効果的に推進するためにもこれらの会等とも連携協力を図ることが重要である。

4 「個別の教育支援計画」の必要性

(1)
 このため、現在、各都道府県等で進めつつある、教育、福祉、医療、労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業後まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制の整備を更に進め、一人一人の障害のある児童生徒の一貫した「個別の教育支援計画」を策定(参考資料を別添)することについて積極的に検討を進めていく必要がある。この計画の策定について、新しい障害者基本計画にも規定されており、適切な教育的支援を効果的かつ効率的に行うため教育上の指導や支援の具体的な内容、方法等を計画、実施、評価(Plan-Do-See)して、より良いものに改善していく仕組みとして重要なものと考えられる。

(2)
 一人一人の児童生徒の教育的ニーズに応じた教育的対応を行うという取組は、現在、盲・聾・養護学校において障害が重複している場合に、自立活動に加えて教科指導等を含めて作成する個別の指導計画や、当該学校において障害が重複しているか否かに関わらず、自立活動について作成する個別の指導計画、卒業後の円滑な就労支援を目的とした「個別移行支援計画」の実践研究など、盲・聾・養護学校を中心に部分的に進められつつあるが、盲・聾・養護学校はもちろん、小・中学校等においても一貫した「個別の教育支援計画」を策定することにより、障害のある児童生徒の視点に立った各種の教育的支援のより効果的・効率的な実施が期待できる。

(3)
 障害のある児童生徒に対する教育的支援は、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面から多様な取組が求められるため、関係機関、関係部局の連携協力をこれまで以上に密接にすることにより、専門性に根ざした総合的な教育的支援が可能となる。こうした関係機関等の連携を効果的に行う上でも、「個別の教育支援計画」は有効なものと考えられる。

(4)
 また、「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、就学前(小学校又は盲・聾・養護学校の小学部就学前までの段階)、就学中(小・中学校、高等学校又は盲・聾・養護学校に就学している段階)、卒業後(高等学校、盲・聾・養護学校の高等部卒業後の段階)、それぞれの段階において、教育、福祉等の関係機関の中から中心となる機関等を定めて、地域、都道府県、国の各レベルで連携協力体制を構築していくことが必要である。この場合、例えば、就学中は、盲・聾・養護学校、小・中学校、高等学校等教育関係機関が中心となり、就学前は福祉、医療関係機関、卒業後は福祉、労働関係機関が中心になることが考えられる。

  これら個別の教育支援計画の策定を担当する機関と関係機関との連携協力が円滑に実施されるようコーディネーター的な役割を果たす者の存在が重要であり、また、関係機関においては協力担当者を明らかにすることが効果的である。また、盲・聾・養護学校など計画の策定を担当する機関の中でも、実際に計画の策定を担当する者を明確にするほか、機関内はもちろん他機関との連携協力を円滑に進めるためのコーディネーター的な役割を果たす者を明確にした上で、これらの者の円滑な業務実施を支援する体制の構築が図られることが大切である。

(5)
 「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、例えば、盲・聾・養護学校においては、学級担任や児童生徒の指導を担当する教員が中心となって、また、小・中学校等においては、例えば障害のある児童生徒の教育に関する知識や経験を有する特殊学級の教員が中心となって、他の教員の協力を得つつ、児童生徒の障害等の状況を分析し、その結果を基に、教育的な支援の目標や基本的な内容等からなる「個別の教育支援計画」の作成を行うことが考えられる。

 また、例えば、教育、福祉、医療等の分野の専門家や有識者から構成される委員会を関係機関等の連携により設けることは、この計画の策定作業の円滑化のために有効な方法と考えられる。その際、保護者等の積極的な参加を促し、その意向を把握するとともに、児童生徒の障害等の状況の分析や教育的支援の目標について理解を得て、その目標に向けて学校や家庭における活動の連携を図ることが大切である。

(6)
 「個別の教育支援計画」は、多様な教育的支援の円滑な実施を確保するために作成されるため、複数の関係者や関係機関がその作成、実施等の過程で関与する。例えば、乳幼児期において福祉や医療関係機関が得た障害や発達に関する情報や盲・聾・養護学校が教育相談を行うに当たって保護者から得た情報は、適切な方法及び内容の教育的支援を行う上で必要なものであるが、個人情報が含まれていることに留意してその情報の取扱いについては保護者の理解を得ることが重要である。このため、各自治体において、教育委員会が中心になって、又は教育と福祉部局が共同で検討の場を設定する等により情報の取扱いの方法について具体的な検討を行っていくことが重要と考えられる。

5 特別支援教育コーディネーター(仮称)の役割

(1)
 学校においては、教職員全体の特別支援教育に対する理解の下に、学校内の協力体制を構築するだけでなく、学校外の関係機関との連携協力が不可欠である。

 盲・聾・養護学校には、専門性のある教員や障害に対応した施設や設備があり、ほとんどの教育・指導上の活動は学校内で工夫の上で実施されることが多いが、例えば、医療的ケアの必要な児童生徒への対応のための医療機関や福祉機関との連携協力、学校外の専門家の非常勤講師としての活用など、常に児童生徒のニーズに応じた教育を展開していくための柔軟な体制づくりを検討することが肝要である。

 また、小・中学校においては、教職員の配置又は施設若しくは設備の状況を踏まえれば独自に対応するには限界があるため、盲・聾・養護学校や医療・福祉機関との連携協力が一層重要である。

(2)
 このように、保護者や関係機関に対する学校の窓口として、また、学校内の関係者や福祉、医療等の関係機関との連絡調整役としての役割が必要となり、具体的には、各学校において、障害のある児童生徒の発達や障害全般に関する一般的な知識及びカウンセリングマインドを有する者を、学校内及び関係機関や保護者との連絡調整役としてのコーディネーター的な役割を担う者(特別支援教育コーディネーター(仮称))として、学校の校務として明確に位置付ける等により小・中学校又は盲・聾・養護学校に置いて、関係機関との連携協力の体制整備を図ることが重要である。また、盲・聾・養護学校の後述するような特別支援学校(仮称)としての地域での役割を踏まえれば、関係機関間の連絡調整を行う役割を有する特別支援教育コーディネーターについて具体的に検討することが重要である。

6 地域の総合的な教育的支援体制の構築と当該地域の核となる専門機関の必要性

(1)
 障害のある子どもの教育的支援において重要な役割を果たす機関には様々なものが存在する。盲・聾・養護学校、小・中学校はもちろん、児童福祉施設、保健所、医療機関等福祉・医療の関係機関等があげられるが、専門的な知識や技能に根ざした教育的支援については、専門職員の数、施設や設備の内容、蓄積された指導の知識や経験等からみても、一般的に、盲・聾・養護学校が重要な立場にあるといえる。

 このため、各都道府県の実態に応じつつ、一定規模の地域を、子どものニーズに応じて必要な教育的支援が適切に提供される「支援地域」として広く捉えて、盲・聾・養護学校や小・中学校、医療・福祉機関等の専門機関が連携協力する支援のためのネットワークづくりを通じて、地域全体で障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく体制を構築することについて、都道府県等関係の自治体において積極的に検討を進めていく必要がある。

(2)
 この支援地域においては、例えば、特定の学校が独自で必要な対応を全て考えるのではなく、関係機関間の連携により、教育的支援の内容や方法の改善・充実を図り、又は、必要に応じて地域における他の学校に転学を行うなど、総合的で柔軟な対応を円滑に行うことが可能となる。また、支援地域における関係機関の円滑な連携のため、都道府県において教育委員会や福祉等関係部局を含めた部局横断型の委員会として、広域特別支援連携協議会(仮称)を設置することにより、各支援地域の特別支援教育の推進体制を促進するための企画・調整・支援等を行う組織を設けることが有効と考えられる。

 また、支援地域の設定の仕方によっては市町村が都道府県又は盲・聾・養護学校と連携を図りつつ当該地域の取組の中心となる場合があり、例えば一つの市町村が、又は複数の市町村が共同で、連携協議会を設置することも考えられるが、その場合には都道府県がその取組への協力や支援を行うことが重要となる。

 なお、盲・聾・養護学校と小・中学校等で、学校を設置するものが各々都道府県、市町村と異なることにより生じる連携面での課題について、連携の円滑化を図るための仕組み等について検討していくことも重要である。

(3)
 支援地域の設定の仕方は様々なものが考えられるが、例えば、いわゆる「障害保健福祉圏域」と整合性をとり、支援のために利用可能な関係機関の所在やその機関が有する教育的支援の機能を考慮して、弾力的に設定されることが重要である。支援地域におけるネットワークづくりを通じた効果的な教育的支援体制を構築する上で、教育において専門性の高い機関が核となって、関係機関に対する支援やこれらの機関との連携協力を図るなど地域における支援のための先導的で指導的な役割を果たしていくことが重要である。

 盲・聾・養護学校がこれまで蓄積した専門的な知識や技能は重要な基盤となるものである。したがって、盲・聾・養護学校の専門性の一層の向上を図り、福祉等の関係機関と連携しながら、その在籍する児童生徒に対してより質の高い教育を行うとともに、その専門性を十分に発揮して小・中学校等の教育活動を支援するなど、地域における教育的支援のセンター的役割を果たしていくことが適切である。

(4)
 このほか、就学後の児童生徒の教育的ニーズの変化を学校においてフォローアップする体制を整備するため、盲・聾・養護学校への就学後も児童生徒の学齢簿を管理する市町村の教育委員会等が中心となって児童生徒本人や保護者に対する相談支援を継続する体制を構築することなどは総合的な支援体制を構築する上で重要な要素と考えられる。このため、都道府県教育委員会等は、上述の広域特別支援連携協議会等において関係部局と連携しながら全体的な企画調整を積極的に進めていく必要がある。

(5)
 支援地域における総合的な教育的支援体制の構築については、例えば、盲・聾・養護学校を複数の障害種に対応する学校とすることで多様な教育機能が発揮できるようにすること、分校や分教室の設置により弾力的な教育体制を構築すること、教育相談の機能を設けて小・中学校に在籍する児童生徒の担当教員や保護者に対する相談支援の機能を充実すること等、自治体の工夫により様々な取組が既に開始されている。このような地域の実情に応じた様々な取組を促進し、総合的な支援体制の構築を可能にする制度やシステムの整備が必要であり、次章以下に述べるとおり、盲・聾・養護学校の在り方や小・中学校の在り方について見直しを行った。

第3章  特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校の在り方について

1 盲・聾・養護学校の制度

(1)
 明治23年小学校令において盲唖学校の設置等に関する規定が設けられ、盲唖学校の制度上の基礎が明確となった。また、大正12年には、盲学校及び聾唖学校令が制定された。その後、盲・聾学校以外にも特別な教育に対する要望が高まり、昭和16年の国民学校令及び同令施行規則によって養護学校が制度上の位置付けを与えられた。また、昭和22年に制定された学校教育法で、「盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ、盲者、聾者又は精神薄弱(現在の知的障害のこと)、身体不自由その他心身に故障のある者に対し教育等を行う」旨規定され、その後、養護学校の対象者の明確化が図られ(昭和36年改正)、現在のように「知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)」に対し教育等を行う学校とされている。

 学校教育法により、各学校の設置義務が都道府県に課されるほか、各学校の小学部・中学部への就学義務が規定されたが、養護学校については各都道府県における整備が十分でなかったため、盲学校・聾学校に遅れて段階的に施行され、昭和54年に養護学校の設置義務及び就学義務の部分の施行により各学校の義務化が完了した。

(2)
 盲・聾・養護学校は平成14年5月時点で996校あり、近年はゆるやかに増加している。障害種別にみると知的障害養護学校が増加傾向にあり、養護学校への就学が義務化された昭和54年時点と比較して1.3倍となっている(肢体不自由は1.25倍、その他は同数かやや減少)。これを在籍児童生徒数でみると、知的障害者が大きく増加しており、また、盲者、聾者、病弱者の順で減少している。また、近年、障害の重度・重複化の傾向がはなはだしく、小・中学部全児童生徒数に占める重複障害学級在籍者の割合は、盲・聾・養護学校の平均で43%であり、肢体不自由養護学校だけでみると74%である(平成14年5月)。

2 障害種にとらわれない学校制度へ

(1)
 盲学校は盲者、聾学校は聾者、養護学校は知的障害者、肢体不自由者又は病弱者に対する学校として制度上位置付けられているため、例えば、盲学校において、知的障害のある子どもは、盲と重複している場合を除いて障害を除いて教育することができないなど、地域や子どもの障害の状態に応じて柔軟な学校を設置することは困難である。

 一方、養護学校においては、知的障害者、肢体不自由者若しくは病弱者又はこれらの障害を含む重複障害のある子どもに対する教育を行う学校の設置運営が可能である。

 今後は、障害種ごとの学校制度から、地域において障害のある子どもたちの教育をより適切かつ柔軟に行えるように学校を設置できるような制度について積極的に検討していく必要がある。

(2)
 また、盲・聾・養護学校における教育課程編成の基準となる学習指導要領についても、学校制度に対応してその内容等が規定されているため、例えば、養護学校においても、原則としては異なる障害のある児童生徒を同一の学校に受け入れることを想定した規定とはなっていない。障害種にとらわれない学校制度を構築するに当たっては、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育がより効果的かつ弾力的に行えるようにするとの観点から、学習指導要領の在り方についても検討する必要がある。

3 地域の特別支援教育のセンター的機能を有する学校へ

(1)
 盲・聾・養護学校は、従来特定の児童生徒に対してのみ教育や指導を行う特別の機関として制度上位置付けられているが、前章6で述べたように、今後、小・中学校等において専門性に根ざしたより質の高い教育が行われるようにするためには、盲・聾・養護学校は、これまで蓄積した教育上の経験やノウハウを活かして地域の小・中学校等における教育について支援を行うなどにより、地域における障害のある子どもの教育の中核的機関として機能することが必要である。

 盲・聾・養護学校の学習指導要領等においては、盲・聾・養護学校は、「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある幼児児童生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を活かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」と規定されている。その学校に在籍する児童生徒の指導やその保護者からの相談に加えて、地域の小・中学校等に在籍する児童生徒やその保護者からの相談、個々の児童生徒に対する計画的な指導のための教員からの個別の専門的・技術的な相談に応じるなどにより、地域の小・中学校等への教育的支援を積極的に行うことで、地域社会の一員として、地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすことが重要である。

 既にこのような取組を学習指導要領を踏まえて行っている盲・聾・養護学校もあるが、今後は、特別支援教育における地域のセンター的機能を有する学校としての役割を踏まえ、この相談等の業務をこれまで以上に重要なものと考えていくことが必要であり、例えば専門の部署の設置等による相談支援体制の充実、地域の研修会等の企画や支援を通じた指導上の知識や技能の小・中学校への普及等の取組を積極的に行うことについて具体的な検討を行うことが必要である。

4 「特別支援学校(仮称)」の役割

(1)
 今後の盲・聾・養護学校は、障害が重い、あるいは障害が重複していることにより専門性の高い指導や施設・設備等による教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対する教育を地域において中心的に担う役割とともに、教育的支援の必要性の程度がそれに至らない児童生徒が就学する小・中学校等における教育や指導に関し、教員や保護者の相談に応じ、助言等を行うなど、小・中学校等に対しても教育的な支援を積極的に行う機能を併せ有する学校に転換していく必要がある。

 また、多様な教育的ニーズに対応するとの観点から特定の障害種のみを受け入れる「盲・聾・養護学校」の制度から、各地方公共団体において地域の実情に応じて障害のある児童生徒に対する教育的支援を充実することが柔軟にできるように、次に述べるような「特別支援学校(仮称)」の制度に改めることについて、法律改正を含め具体的に検討していく必要がある。

(2)
 この「特別支援学校(仮称)」の制度では、視覚障害、聴覚障害、知的障害等複数の障害の各々に対応して専門の教育部門を有する学校を設けることが可能となる。また、従来のように視覚障害、聴覚障害、知的障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることも同様に可能である。具体的にいかなる障害に対応した教育を行う学校とするか、複数の障害の部門を設け幅広い相談機能を有する学校とするかといった学校の設置運営の在り方については、各地方公共団体が重複障害のある子どもの増加、地域(支援地域)における教育のニーズ等、地域の実情にも応じて弾力的に判断することになる。

 なお、障害に起因する学習や生活上の困難を改善又は克服するための、障害に応じた適切な教育を確保するために指導上の専門性が確保されることはいうまでもない。

(3)
 また、他の「特別支援学校(仮称)」や福祉・医療・労働関係機関とも連携を密にし、地域の障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく必要がある。障害のある児童生徒で特別の教育的支援を必要とする者に対する支援を行う地域の特別支援教育のセンター的役割を果たす学校への転換を図るためには、校長のリーダーシップの下に、各学校に求められる役割に応じて具体的な目的や目標を明確にして、組織や運営の在り方を再構築し、その成果を定期的に評価するなど一層効果的な学校経営(マネジメント)が求められる。

第4章  特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について

1 特殊教育に係る小・中学校の制度

(1)
 視覚障害者・聴覚障害者以外にも教育の機会を保障する必要性から、昭和16年の文部省令において、身体虚弱、精神薄弱(現在の知的障害のこと)その他心身に異常のある児童であって特別養護の必要があると認められる者のために教育を行う特別な場として、養護学校とともに、「養護学級」が法制度上位置付けられた。また、昭和22年に制定された学校教育法においては、小・中学校に特殊学級を置くことができる旨規定され、いわゆる中軽度の知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者等に対して、その障害区分ごとに、発達の遅れやその特性から学籍を固定して小集団における発達段階に応じた特別な教育課程や指導法により対応する、いわゆる固定式の場で教育を行うものとされた。

 特殊学級の設置目的は上述のとおりであるが、その整備の過程では、知的障害者等の受入れのための養護学校の整備が十分に進まない中で、障害のある児童生徒の教育機会を確保するために小・中学校に特別な教育の場として整備が進められた場合もあった。

 また、特殊学級については、その設置の立ち後れから、昭和29年の中央教育審議会答申においてその計画的設置が提言され、漸次、その整備が進められてきた。最近は、全在籍児童生徒数の増加傾向に比し、学級数の増加傾向が顕著であり、一学級当たり2.79人(平成14年5月現在)となっている。

 特殊学級では、在籍児童生徒への障害に応じた特別の教育指導に加えて、通常の学級に在籍する障害のある子どもへの指導を担当する教員の相談支援について、その専門性に応じた役割を果たしている例もある。

(2)
 通級による指導は、教科等の指導のほとんどを通常の学級で受けつつ、障害の状態に応じた特別の指導を特別の場で受けるという指導形態で、平成5年に制度化され、その対象児童生徒数は大きく増加している。平成5年(5月時点)に12,259人であったものが、平成10年(5月時点)では倍増し、平成14年5月現在で、義務教育段階では、言語障害、情緒障害、弱視、難聴、肢体不自由、病弱・身体虚弱を対象に31,767人が通級による指導を受けており、うち言語障害が26,453人を占めている。

 通級による指導は、障害の状態の改善・克服を目的とした特別の指導を行うものであり、特に必要な場合に教科の内容の補充指導を併せて行うものとされている。また、指導の時間も年間35〜105時間(週1〜3時間が標準)と短時間である。

 なお、平成5年の制度化に当たってはLDを対象とすることについては、定義や判断基準が明らかになっていない等の理由により引き続き検討すべき課題とされている。

 他方、通常の学級に在籍する児童生徒が、特定の時間、特定の場所で教科指導を含め必要な教育を受ける指導の形態は、学校によっては、LDの児童生徒に限らず、教科学習につまずきのある児童生徒をも対象に、放課後に自由に参加できるいわゆるオープン教室の形で指導を行い成果を上げている事例がある。

(3)
 平成14年4月に行われた就学指導の在り方の見直しのための学校教育法施行令の改正により、就学基準に該当しても市町村の教育委員会が障害の状態や学校の状況等を踏まえて総合的な判断を行い、小・中学校において適切に教育を受けることができる特別の事情があると認める場合には小・中学校に就学することが可能となった。こうした児童生徒については、これまで特殊教育で培ってきた指導方法、ノウハウを活かすことがますます重要となるため、個別の教育支援計画の作成を通じた小・中学校の学校全体での指導体制の充実や特別支援学校との連携協力が重要である。この点からも、学校内及び関係機関や保護者との連絡調整役として、特別支援教育コーディネーター(仮称)が重要である。

2  LD、ADHD等の現状と対応

(1)
 LD、ADHD、高機能自閉症のある通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への教育的対応は緊急かつ重要な課題となってきている。こうした児童生徒が学級にいる場合、担任教員の理解や経験又は学校内での協力体制が十分でないこと等から適切な対応ができない、また、時には、学級としてうまく機能しない状況に至る事例もある。

 これらの児童生徒は多様な障害の状態像を示すことがあり、その状態に応じて情緒障害、言語障害等の通級指導教室や特殊学級において教育を受けている場合もあるが、総合的、体系的な対応はなされてこなかった。

(2)
 LDについては、通級指導教室に関する調査研究協力者会議の報告(平成4年)で初めてその対応についての検討の必要性が取り上げられ、「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」の報告(平成11年7月)により、その定義、判断・実態把握基準(試案)、指導の方法などが示された。また、平成12年度から、LDのある児童生徒に対する指導体制の充実事業が全国で展開されてきており、同会議の示した定義、判断・実態把握基準等の検証や学校における適切な指導体制の整備に向けて取り組んでいる。具体的には、小・中学校に校内委員会を設置し学校における実態把握を行うとともに、教育委員会に置かれる専門家チームの意見を踏まえてLDの判断や適切な教育的対応を決定するほか、専門家による巡回指導の有効性の検証を行ってきている。

 しかしながら、ADHDや高機能自閉症については、その定義や判断基準が明確になっていないこと等から学校における適切な対応が図られてこなかった。

(3)
 LD、ADHD、高機能自閉症により、学習面や生活面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数は、既に述べたとおり、通常の学級に在籍する児童生徒の6%程度と考えられること、また、学習上で著しい困難を示すLDと、行動上で著しい困難を示すADHDや高機能自閉症とが重複している場合があること、LD、ADHD等については指導内容や指導上配慮すべき点について類似する点も少なくないことから、個々の障害ごとにではなく総合的に対処することが適切な場合も考えられることから、これらの実態を踏まえて効果的かつ効率的に対応することが求められる。

(4)
 本調査研究協力者会議では、ADHDや高機能自閉症について、その定義と判断基準(試案)、学校における実態把握のための観点(試案)、指導方法等(別添資料参照)について作業部会を設置して検討してきた。今後は、同作業部会のとりまとめた内容が実際に学校教育の場で効果的に活用できるよう検証するとともに、学校における適切な指導体制を早急に構築する必要がある。国においては、上述のLDへの指導体制の充実事業を通じて整備を進めている支援体制を拡充し、ADHDや高機能自閉症を含めた総合的な支援体制の確立に向けた、「特別支援教育推進体制モデル事業」を平成15年度より開始することを予定しているが、本事業を通じて、地方公共団体と連携を図りながら、早急に学校及び地域における体制整備を図ることが必要である。

 ADHDや高機能自閉症は、近年、その教育的対応の重要性が認識されてきている障害であることから、管理職を含む教職員や保護者等への幅広い理解の推進が必要である。

 また、LDとともに、ADHDや高機能自閉症といった通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒に関わる教職員に対する研修や相談支援を、国立特殊教育総合研究所や都道府県等の教育センター等において積極的に行う必要がある。

 LD、ADHD等は、個々の児童生徒により多様な状態を示すことがあり、例えば、ADHDの児童生徒が同時に高機能自閉症と判断されること、又は、同時にLDと判断されることもある。このため、これらの児童生徒の教育的ニーズは多岐に渡ることもあることから、国立特殊教育総合研究所においては、当該児童生徒への具体的な指導方法の実践的な研究を引き続き進めるとともに、これまでの研究成果や実践事例をとりまとめ活用し易いものにして、学校や都道府県の教育センター等に対して的確に情報提供することが必要である。

3  学校内における特別支援教育体制の確立の必要性

(1)
 このように多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学することを考慮すれば、教職員の理解促進を含め学校全体が組織として一体的に取り組むことを確保する体制の構築、特殊教育により培った指導方法・ノウハウの効果的な活用が不可欠である。また、一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育を行うための計画を作成し、実行するためには盲・聾・養護学校や福祉・医療機関等との連携協力が重要である。このことを踏まえて、LD、ADHDなどの障害により、通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒への総合的な支援体制を確立する必要がある。

 この点で、LDへの最近の教育実践にもみられるように、校内委員会等による学校内の体制整備や障害のある児童生徒の実態把握や指導に対して助言を行う専門家による支援体制の整備に加えて、児童生徒の指導を直接担当する教員等の学内の関係者、保護者や関係機関との連絡調整役としての特別支援教育コーディネーター(仮称)による対応や、少人数指導や個別指導を行うチーム・ティーチング(TT)の活用は、今後の支援体制を考える際に重要な要素を提供しているといえる。

 また、小・中学校に置かれる特別支援教育コーディネーター(仮称)について、各学校で具体的にいかなる機能や役割を担わせるかは、学校や地域の実情によって多様であると考えられるが、少なくとも上述の連絡調整の機能や役割を果たすことを基本として、迅速かつ効果的に学校における体制整備を進めることが重要である。また、その職務を学校内において円滑に実施するために出来る限り指導的な立場にある者がこれに当たることが望まれる。

 なお、一般的に言えば、盲・聾・養護学校で指導した、又は、特殊学級や通級指導教室を担当した経験を有する特殊教育の経験者は特別支援教育コーディネーター(仮称)の候補者であるが、それらのものに限らず、コーディネーターとしての高い資質や能力を有する教員が、特別支援教育コーディネーター(仮称)となることも考えられる。このため、教員が必要な知識や技能を身に付けることでコーディネーターとしての役割を果たすために効果的な研修等について具体的な検討が必要である。

(2)
 小・中学校においてこのような体制整備を図るに当たって、小・中学校に蓄積された人的・物的な資源を効果的に活用することに加えて、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等外部人材の積極的な活用を図るという視点が重要である。また、盲・聾・養護学校から巡回による指導等による支援を効果的に受けるための連携協力も重要であり、その意味で、これまで特殊教育で培われた教育や指導上の知識や経験を中心に、幅広い分野の専門的知識や技術を総合的に活用していくことが必要である。

 なお、小・中学校においては、学力の向上を目指した個に応じた指導の充実、不登校やいじめに対する学校内や地域の教育相談体制の充実による対応等種々の取組が既に行われ、今後、更に充実が図られる予定であるが、これらとの有機的な連携に十分留意して、適切な特別支援教育体制を構築していくことが必要である。

 また、親の会やNPOの中にはLD、ADHD等の理解の促進等を目的に活発に活動を行っているものがある。こうした草の根的な活動は、教育の充実や効果的な展開を図る上で、重要な役割を果たしうるものと考えられることから、親の会等との連携協力も図りながら取組を行うことも重要なことと考えられる。

(3)
 特殊学級は、盲・聾・養護学校の対象でない比較的障害の軽い児童生徒に対して適切な教育を行う場として設けられたが、この特殊学級については、特定の児童生徒に対する専門的な指導が可能であるという点を評価する意見がある一方で、その在り方については検討すべき点があるとする指摘もある。例えば、@障害のない児童生徒との交流の重要性に鑑み多くの時間を交流学習にあて通常の学級に在籍する児童生徒と共に学習する機会を設けている実態を踏まえれば、必ずしも、固定式の教育の場を設ける必要はないのではないか、A障害のある児童生徒の発達や障害等について専門的な知識や技能を有する特殊学級の担当教員は、小・中学校において重要な役割を担うべき者であり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の教育のためにはもちろん、関係機関との連絡・調整役となるコーディネーター役として活用されるべきではないか、B特殊学級に蓄積された指導上の知識及び経験並びに設備及び機器は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも広く活かされるべきであり、特定の児童生徒のみの特別の場として位置付けることは適当ではない、というものである。このような指摘を踏まえ、特殊教育の中で培われた資源を有効に活用してより質の高い教育的支援を行うということを念頭に特別支援教育の在り方を考えていく中で、特殊学級の在り方を検討することが必要である。

(4)
 通級による指導は、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒に対する特別の指導を行うための制度として設けられ、近年、対象児童生徒数が増えていることからもそのニーズは高いといえる。しかしながら、@障害の状態の改善・克服を主たる目的としており、LDのように特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う指導が中心となる場合を想定していない、A指導時間数が1〜3時間と短時間であり、LD、ADHD等については適切な対応が困難な場合がある、ということを踏まえ通級による指導の制度の目的や指導時間について、より弾力的な対応ができないか検討する必要がある。

(5)
 このため、特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある。

 この際、単に、特殊学級や通級指導教室の教員のみで対応するのではなく、学校内の教員全体の理解の促進と支援体制の構築、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の活用、「特別支援学校(仮称)」や福祉、医療等関係機関、都道府県等の設置する特殊教育センターに相談し、指導や助言が受けられるような体制を構築して総合的に対応するための仕組みづくりに取り組むことが重要である。

(6)
 特殊学級の機能として、その制度の本来の趣旨を尊重し、盲・聾・養護学校の対象とはいえない程度の教育的ニーズを有する障害のある子どもを教育する機能を今後も持たせることが適当であり、この場合には、これまでの交流学習等の実践でも明らかなように、他の子どもと共に学習すること、又は、生活する時間を共有することが有効であると考えられる。

 このため、小・中学校に在籍しながら通常学級とは別に、制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要と考える。

(7)
 この場合、例えば、小・中学校の障害のある児童生徒は、障害の状態等に応じてできるだけ自らが在籍する学級において他の児童生徒と共に学習し、生活上の指導を受け、障害に配慮した特別の教科指導や障害に起因する困難の改善・克服に向けた自立活動といった特別の指導が必要な時間を、この特別支援教室において担当の教員等から指導を受けることになる。

 特別支援教室の運営形態としては、障害の状態によって、@従来の通級指導の対象となる児童生徒のように週に数時間のみこの教室で指導を受ける場合、A従来の特殊学級における教育の対象となる児童生徒のように週の相当の時間をこの教室で指導を受ける場合、また、B小学校の低学年で集中的に特別の指導をこの教室で受け、高学年ではほとんどの時間を他の児童生徒と共に学習するという場合等様々なものが考えられ、従来の特殊教育の機能を包含しつつ弾力的な対応を可能とするものである。

(8)
 今後、小・中学校における障害の児童生徒への対応を考えるに当たっては、多様な障害種に応じた教育的対応が求められることに留意する必要がある。例えば、学校における教員等の配置についても、各学校に配置された教員がその学校の児童生徒の教育を担当する形態に加えて、特定の学校に一定数の教員を配置し同学校を拠点に他の学校の特別支援教室に出向いて教育や指導を行う巡回指導の形態等、柔軟な対応について具体的に検討することが必要である。

(9)
 LD、ADHD等を含め、障害のある子どもで特別の教育的支援を必要とする者について、上述のような小・中学校での取組に加えて幼稚園、高等学校、高等教育の各段階において適切な対応を図ることが重要である。

 幼児期からの支援を進めるためには、幼稚園全体で支援しあえるような体制の整備、日頃から保護者への理解推進を進めていく研修等の充実が必要である。

 文部科学省においては、平成15年度より都道府県教育委員会と連携して幼稚園における障害の状態に応じた個別の指導計画の工夫、教職員の協力体制や障害に配慮した指導体制の在り方等について実践的な調査研究を開始することを予定しており、こうした取組を通じて、LD、ADHD等についても受入れ体制や、指導の充実が図られることが重要である。

 また、幼稚園と比べて保育所の在籍幼児数が多い実情を踏まえれば、障害に対応した適切な教育的対応を考えていく上で保育所の役割を軽視することはできない。保育所においても幼稚園と同様の視点から取り組むことが期待され、また、小学校や盲・聾・養護学校の小学部において幼稚園や保育所と日頃からの情報交換を行うことが就学後に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育を行う上で重要と考えられる。

 また、中学校を卒業した後は、高等学校へ進学する生徒も多いことから、高等学校においても、LD、ADHD等へ対応した特別な支援体制を構築することや、研修などを通じて理解推進が図られることが重要である。また、都道府県等の教育委員会に設置された専門家チームが、必要に応じて高等学校への支援を行うことについて検討する必要がある。さらに、養護学校高等部との連携も重要である。

 高等教育段階においても、大学において、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由等の学生について、ノートテイカーの配置、講義ノートの作成等の障害に応じた教育上の配慮、エレベーター、スロープ等の施設や設備面での整備等の取組が各大学において進められている。また、LD、ADHD等の学生について、大学関係者の理解の促進が図られ、学生に対し相談支援を行う組織体制についての具体的検討や個々の学生への支援の内容や方法についての検討が進められることが重要である。

第5章  特別支援教育体制の専門性の強化

1 総合的な取組の必要性

(1)
 障害のある児童生徒に対して適切な教育を行うために、教員等の配置、学級編制、施設や設備の整備等様々な面で手厚い措置を講じてきたが、盲・聾・養護学校において、又は、小・中学校における特殊学級等においてそれぞれ指導の専門性の向上や両者間における連携協力、福祉、医療等関係機関との連携協力が十分であるとはいえない状況にある。

 今後は、校長、教頭をはじめとした教員一人一人の障害のある児童生徒に対する理解や指導上の専門性を高めること、組織として一体となった取組が可能となるような学校内での支援体制を構築すること、学校外の専門家等の人材を学校で有効に活用すること、関係機関との有機的な連携協力体制を構築すること等により、特別支援教育体制の専門性の強化に向けた取組が重要である。

 また、国として指導内容や方法の面で重要と考える課題や先進的な課題について、積極的に研究が行われ、その成果が研修等により、各自治体や学校に迅速に普及させていくことも質の高い教育を行う上で重要な課題である。このため、国立特殊教育総合研究所、国立久里浜養護学校、関係の大学等を特別支援教育を推進していく上での資源又は重要な専門機関として捉え、積極的に活用する総合的な教育研究体制の構築を目指す必要がある。

(2)
 担当教員の基本的な資質能力を確保する免許制度は障害のある子どもの教育を支える上でも重要な基盤の一つである。現行制度において特殊教育免許は対象となる障害種が特定されているが、近年みられる児童生徒の障害の重度・重複化や多様化の状況に対応して免許制度についても改善が図られることが重要である。

 国の中央教育審議会教員養成部会において平成13年12月に特殊教育免許の総合化に関するワーキンググループが設置され、障害種別に対応した専門性を確保しつつ多様な障害へ対応することが可能となることを目指して特殊教育に係る免許制度の改善について検討が行われている。現在、本調査研究協力者会議におけるこれまでの審議状況も踏まえて免許制度の見直しについて調査審議が行われているが、原則として学校の種類ごとに免許を必要とする現行免許制度との整合性、学校内外の人材又は機関による総合的な連携体制の構築による一層質の高い教育の確保や小・中学校等におけるより適切な教育的対応等の観点も踏まえ、特別支援教育を進める上で適切な制度となるよう同ワーキンググループにおいて具体的な検討が行われることを強く期待する。

(3)
 盲・聾・養護学校の教員の特殊教育教諭免許状保有率が十分でないという実状に鑑み、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえて、各自治体において特別支援教育における専門性の重要性を十分に理解し保有率の向上に向けた一層の取組が求められる。また、盲・聾・養護学校の教職員、特殊学級や通級指導教室担当教員について、教育はもちろん、コーディネーターとしての資質・能力の向上のため、地域のニーズも踏まえつつ、国立特殊教育総合研究所、都道府県等の教育センター、大学等により適切な研修プログラムの提供を行うことが重要である。

(4)
 就学前の子どもに対する教育相談や、乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養護学校の幼稚部や小学部が積極的に関わることが重要であり、乳児期から療育に取り組む福祉関係機関に対し積極的に協力、支援を行うことが求められる。また、障害のある者に対し、卒業後の学習機会の充実のため、盲・聾・養護学校は、関係機関と連携して、生涯学習を支援する機関としての役割を果たしていくことも重要である。

(5)
 障害の状態に応じた適切な教育を行う上で先導的な指導方法の開発等が重要であり、これまでも国立特殊教育総合研究所、大学等において関連の調査及び研究が行われてきているが、この成果が円滑に学校において普及し、指導に活かされるようにすることが重要である。

 なお、最近では、脳の発達と学習方法、コミュニケーション等脳科学からの知見の蓄積を育児や学習指導に活かしていくことが重要との認識の下、国内外で脳科学と教育との関わりを重視した取組が行われている。文部科学省においても、個人が有する能力の健全な発達や維持又はその妨げとなる要因を適切に除去又は克服するとの視点に立って「脳科学と教育」研究を重要な研究分野として捉え、文部科学省内に設置した「脳科学と教育」研究に関する検討会に、ワーキンググループを設けて今後の取組方策等について検討を行ってきている。言語障害、LD、ADHD等のように脳の発達と密接な関連があるものもあり、障害のある児童生徒についても脳科学の成果を踏まえて適切な教育的対応を図ることが一層効果的と考えられるものがあるため、現在行われている検討の結果も踏まえ、教育サイドからの課題の提示を踏まえた「脳科学と教育」研究が進展することが望まれる。この場合に、国立特殊教育総合研究所等教育に関わる機関や研究者も積極的な対応を図ることが期待される。

2  国立特殊教育総合研究所の在り方

(1)
 国立特殊教育総合研究所は、平成13年4月に独立行政法人になった。同研究所の独立行政法人への移行に当たっては、平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」において、我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能を高めることが必要であり、このため、国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究の推進と実践的な研究の充実、体系的、専門的な研修の充実、教育相談活動の研究と教育相談に関する情報提供等の機能の充実の必要性が提言された。ここで提言された内容は、今後も有効なものである。

(2)
 特殊教育をめぐる諸情勢の変化、財政的な事情等を踏まえ、より質が高く、より社会的要請に対応した研究を効果的に行う必要があり、このため同研究所は、LD、ADHD、自閉症等の新たな課題の研究への取組はもちろん、国内外の大学、研究機関等とのネットワークの構築により効果的かつ効率的に研究を実施するための組織体制の構築が重要であり、社会的なニーズの高い課題について弾力的に取り組めるような体制を整備することが必要である。

(3)
 また、同研究所は、長期又は短期研修、講習会等を通じて、学級担任から指導的な立場にある者も含め教員等の資質の向上のために幅広い分野、領域で貢献してきた。近年では、都道府県等各自治体における研修も活発に行われるようになってきており、今後は、自治体独自で実施することが困難な内容の研修の開催や自治体の研修活動への協力を行うとともに、また、情報技術の活用等を通じて、研修活動の一層効率的、効果的な実施に向けて具体的に取り組んでいくことが求められる。

(4)
 このように、障害種にとらわれず、社会的要請に弾力的に対応するという視点に加えて、地方公共団体や関係機関とのネットワークを通じてその取組を補完、若しくは、支援する、又は、関係機関との共同研究・事業の企画、調整する役割を担う機関として、我が国全体を視野に入れて、特別支援教育の研究や研修を総合的に推進していくという視点が重要である。

(5)
 国立久里浜養護学校との連携においても、同研究所は、昭和48年に国立久里浜養護学校が設立されて以来、重度・重複障害の子どもを中心に、実際的な研究の推進や研修面における教育実践のための相互協力を行ってきた。これにより、同研究所の研究や研修活動の成果は、養護学校における重度・重複障害の児童生徒に対する適切な教育や指導法の確立に活かされ、その学習機会の保障の実現に大きく貢献してきた。

(6)
 今後とも、新たな課題に対応して国立久里浜養護学校との相互協力により研究、研修活動等に取り組むことが必要であり、特に、これまで養護学校において様々な教育が実践されてきたにもかかわらず有効な指導方法が十分確立されていない自閉症について、大学等の関係機関との連携を図りつつ、国立久里浜養護学校との相互協力の充実を図る必要がある。

3  国立久里浜養護学校の在り方

(1)
 国立久里浜養護学校は、昭和48年9月に重度・重複障害の児童生徒を受け入れる国立の養護学校として設置され、国立特殊教育総合研究所との相互協力の下で、教育研究や研修の充実に取り組んできた。養護学校への就学の義務化を控えて重度・重複障害の児童生徒の教育や指導の方法を開発することは重要な政策課題であり、実際的な教育研究や研修面での臨床実践の場として機能し、当該児童生徒の就学の確保に大きく貢献した。

 しかしながら、全国的に養護学校が整備され、また、重度・重複障害の児童生徒の受入れも進められてきている一方で、国立大学の法人化が具体化し、国立久里浜養護学校を含め国立学校の今後の在り方が問題となったところである。

(2)
 現在、前述のように自閉症の児童生徒に対する教育・指導の方法の開発が重要な課題となっており、教育研究の成果の体系的な蓄積やそれに基づく研修等のプログラムの提供等が重要である。「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」においても、自閉症の児童生徒の教育的対応については、知的障害との違いを考慮しつつ障害の特性に応じた対応について今後も研究が必要であり、国においては、知的障害養護学校等における効果的な指導の在り方について調査研究を行う必要があることが指摘されている。

 これらを効果的かつ効率的に実施するためには、自閉症の児童生徒の教育研究を行う場として、あるいは、教員が指導の方法、技術等を実践し体得する研修の場としての機能を有する学校が必要である。

(3)
 近年、国立久里浜養護学校においても自閉症の指導プログラムの開発のための実践研究を進めてきているが、今後は、国立特殊教育総合研究所、大学等関係機関との連携協力の下で、自閉症の児童生徒の教育研究の場として、又は、指導や研修の実践の場として機能することにより、我が国の自閉症の児童生徒への教育的対応についての研究や研修に積極的に貢献していくことが必要である。その場合、自閉症の児童生徒への指導の経験を有する教員を計画的に配置する等、自閉症の児童生徒への指導を的確に行うために必要な体制整備を都道府県等とも連携しながら進めていく必要がある。

  なお、国立大学等の法人化に伴い国立学校の一つである国立久里浜養護学校の設置形態の検討が必要となるが、自閉症の児童生徒への指導方法の研究を効果的に進めるためには、基礎的な研究を含め総合的な取組が必要となること、また、幅広い研究スタッフ、蓄積された研究の成果の活用が円滑に行えること等にも十分に配慮する必要がある。このため、障害のある子どもの教育について研究実績の豊富な大学の附属学校とすることにより、大学の基礎研究と国立特殊教育総合研究所の実際的な研究との密接な連携を確保し自閉症の児童生徒の教育研究を支える学校としての機能が最大限に発揮されることを期待する。

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